運命の日

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運命の日

 ルナリアが転移してきてから、ちょうど三月が経つ日。召還の術が発動される可能性が最も高い日だ。  ここ数日、ルナリアはずっと防御魔法を掛けられており、ミハイルの側から、できるだけ離れないようにしていた。  今日も朝から気を張りっぱなしで、ミハイルと二人、居間に篭っている。 「今日、喚び戻されてしまうのかしら……」 「今日が最も危ないだろうな」 「何の前触れもなく、突然魔法が現れるのでしょうか?」 「君がここに来た時はそうだった。突然、強烈な光が輝き出して、すぐに君が現れた」  ミハイルがルナリアを見つめて微笑む。 「……最初に君を見た時、天使か精霊が現れたと思ったんだ。あまりにも美しかったから」  ルナリアは突然の告白に驚いて頬を染めた。恥ずかしくて堪らないのに、ミハイルの綺麗な深緑の瞳から目を逸らせない。 「二百年後から転移してきたと聞いた時は驚いたが、やはり君は天使なんだと思った。天使が帰っていくその日まで護ろうと思っていたのに、今では力づくででも奪おうなどと考えるとは……。君は、私だけのものでいてくれるだろうか?」 「はい……。私は、貴方と生きていきたい」  ルナリアの潤んだ瞳に、ミハイルの切なげな顔が映る。二人の距離がゆっくりと近づいて、ルナリアはそっと瞳を閉じた。  ミハイルがルナリアの頬に優しく手を添え、唇と唇が触れ合った、その時──。  ルナリアの周囲が眩く輝き出し、ミハイルが弾き飛ばされた。 「ぐっ……!」 「ミハイル!」  棚に体を打ちつけ、堪らずミハイルが声を漏らす。 「……大丈夫だ! 防御魔法も発動している!」  ミハイルの言う通り、ルナリアの足元に複雑な魔法陣が広がった。そして、ルナリアを檻のような緑色の光が囲もうとした、その時。なぜか防御魔法が解除され、緑の檻が消し飛んだ。 「馬鹿な! なぜ解除された!?」  ミハイルは必死にルナリアに近づこうとするが、眩い光から放出される暴力的なまでに強い魔力がそれを阻む。 「ミハイル! 私、もう……」  ルナリアの体がどんどん透き通っていく。 「ルナリア! ルナリア!」  声の限りに叫び、懸命に手を伸ばすが、ルナリアを包む白い光はミハイルのことなど構うことなく、どんどんと輝きを増し、最後に強烈な光を放って、ルナリアを連れ去っていった。 「……くそっ! ルナリア!!!」  先程までの出来事が嘘のように静まり返った部屋に、ミハイルの悲痛な叫びが虚しく響く。  傍らには、転移の衝撃で飛ばされたのか、ルナリアがいつも付けていたムーンストーンのペンダントが転がっていた。
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