ミハイルとカイン

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ミハイルとカイン

 カインの腕の中でひとしきり泣いた後、ルナリアはおずおずと顔を上げて尋ねた。 「……どういうことなのか、説明してくださいませんか?」  カインはルナリアの頬に手を添え、涙の跡を拭き取ってくれる。その仕草にミハイルの名残りが感じられ、ルナリアは安堵した。 「君が喚び戻されたあの日……君にとっては、ついさっきの出来事だけれど、防御魔術は解除されて失敗したが、もう一つ掛けていた魔法は無事だったんだ。君と私を繋ぐ、運命の糸のような魔法。時間は離れていても、それで繋がっていられたから、私は希望を失わずに済んだ」 「私とミハイルを繋ぐ魔法?」 「ああ、それを頼りに、二百年後の世界にいる君を追いかけようとした。未来への転移が不可能なら、別の方法を取るしかない。私は、二百年後の世界に転生するという方法に全てを懸けることにした。何年も、何十年もかけて、ついに転生の魔法を完成させ、君のいる二百年後の世界へと転生したんだ」 「……私のために、そんなにも努力してくださったのですか…?」  あの別れから、何十年もの時を費やして、追いかけてきてくれたというのか。共に生きたいというルナリアの願いを叶えるために、途方もない犠牲を払って。  先程やっと止んだ涙がまた溢れそうになり、ごしごしと擦って耐えた。 「本当は、第一王子との婚約も阻止したかったのだが、それだけはどうにも出来なかった。すまない……」 「気にしないでください。おかげで、ミハイルに出会えたのです」 「確かに、そうとも言えるな……。きっと、ミハイルは二百年前で君を助け、カインはミハイルを助けるのが役目だったんだろう」 「カインがミハイルを助ける?」 「ああ。防御魔法は解除されたのに、君との繋がりは見逃されていたし、転生魔法に必要な膨大な魔力も残してくれていたんだ。君がずっと身に付けていたムーンストーンの守護石に、莫大な魔力が込められていた。私の魔力だけでは不可能だった」  思わず胸元に手をやるが、身に付けていたはずのペンダントがない。どうやら召還された際に飛ばされたのか、ミハイルの側に転がっていたそうだ。 「ルナリアが召還された時は、顔も知らぬ魔術師のことが憎くて仕方なかったが、今では感謝しているよ。それに、やはりこうなることが最善だったんだ。君と家族は再会するべきだし、君の名誉も回復されなければならない。慣れない昔の世界よりも、元の世界にいた方が暮らしやすいだろう」  カインがルナリアの髪を一房掬って口付ける。 「私は貴方と一緒なら、どこででも生きていけます。……でも、心残りがあったのは確かです」 「無理やり人生を捻じ曲げられたんだ。心残りがあって当然だ。だから、その心残りを壊しに行こう」 「心残りを、壊す?」  訳が分からないでいるルナリアの手を握り、パチンと指を鳴らすと、次の瞬間には見覚えのある扉の前にいた。  忌まわしい記憶の残る、あの裁きの間の扉の前に。
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