16.欲しい物を強請りにきたのかな?

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16.欲しい物を強請りにきたのかな?

「妻になって俺と暮らそう。贅沢な生活を約束する」  一度断ったのに続ける公爵令息に、私は苛立った。嫌だと意思表示したよね。そんな睨みに気づいたのか、隣でルーカス様が口を開く。 「どうやら、イーリスは私を選んだようだ」  ふふんと胸を張る姿に、くすっと笑う。ケンカに勝った子どもみたいだ。こんな一面もあるんだな、と胸が温かくなる。好きな人の意外な一面は好ましい。でも嫌いな人が同じ一面を見せたら、きっと私は酷評する。いつまで子ども気分でいるのか、と。公爵令息が同じ態度を取ったら、私の態度は冷たいだろう。 「だが……ヴェールに顔を隠されていては、本人かどうかも疑わしい」  なるほど。いちゃもんをつけて、私の正体を暴こうって方向かな。これで言葉に踊らされて顔を晒せば、今後は私自身が隣国から狙われる。ただの子爵令嬢なら誘拐されても大騒ぎにならないし。隣のルーカス様はにやりと笑った。悪い顔……この表情が似合うのも素敵。恋って盲目だわ。  国王陛下は無言だけれど、表情が険しくなった。顔の半分を扇で隠した王妃様も眉を寄せる。私が聞いたのは、直接告白して振られたら諦めるから……という提案だけ。ならば、ここを切り抜ければ終わりだ。肩にルーカス様の手が触れ、首を傾けると微笑まれる。 「いい加減になされよ、ステーン公爵令息。これは国王陛下並びに王妃殿下への不敬ですぞ」  陛下や王妃様が隣国からの客人に嘘をついた。その上で、偽者と会わせたと言っているのも同じなのね。政治的な駆け引きに疎い私だと、こんな言葉は出てこないかも。感心していると、彼はさらに反撃を試みた。 「いいえ、陛下方も騙された可能性もございますので」  お前の策略だろ、と言わんばかりに宰相閣下を睨む。国王陛下ご夫妻を非難したんじゃないと逃げ道を作り、でも自分は間違っていないと我を通そうとする。この辺の駆け引きは、外で観るもので当事者になるものじゃないな。  国王陛下は顎髭をゆっくりと撫でた。苛立った時や焦ると出る癖だから、今回はイラっと来ちゃったみたい。王妃様も目が笑っていない。嘘つきや騙された馬鹿扱いは、どんなに言葉を尽くして包んでも嫌だもんね。わかるわ、と頷いた。かすかな動きだったけれど、ルーカス様が肩を抱き寄せる。  うっ、美形っていい匂いがする。私は臭くないわよね? 心配になり、くんと鼻をひくつかせた。今朝、匂いの強いジャムを食べちゃったのよ。変な臭いの女だと思われたくない。 「イーリス」  突然呼ばれ、内心は大慌てだ。やっぱり臭うのかな。どきどきしながら彼を振り仰いだ。 「彼と直接の面識は?」 「いいえ」 「というわけです。イーリスがヴェールを脱いだとして、面識のないステーン公爵令息に判断が付きますか?」  お前は顔を知らんだろ。そんな嫌味に、公爵令息がぐっと拳を握り込んだ。一瞬目が泳ぐのは、考えを急いで纏める必要があるから。口元がひくっと動くのは、図星だからだろう。こういう観察は得意なんだけど、政治的な策略みたいなのは無理。駆け引きも私には縁遠い。 「近くで顔を見れば、見分ける自信があります」  根拠はないみたい。呆れたと肩を落としたルーカス様にカチンときたのか、ステーン公爵令息はここから暴走し始めた。支離滅裂なやり取りが繰り返され、私が手に入らないなら別の何かを寄越せと言い出す。もちろん、こちらが譲歩する理由はない。ついに本音がまろび出た。 「本物の占い師殿を渡すか、それとも鉱山を手放すか。二つに一つです」  うわぁ……どちらに転んでも隣国は損しないけど、我が国は大きな痛手じゃないの。政は詳しくない私でも分かる。そんな言い分が通るわけないよ。
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