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17.残酷なほど正確に、正直に
アベニウス王国には、めぼしい鉱山がない。ネヴァライネン子爵家の領地はほとんどが山で、人が住んでいるのは小さな村が一つだけだった。農業や酪農で得られる税収は僅かで、占い師としての収入を持ち出して村の整備をしている。単独では収支が成り立たない領地だった。
でもその山に財産がある。ここが陛下の上手なところだと思うのよね。先代の宮廷占い師は叔母様だった。お祖母様には二人の女児が生まれ、お母様は長女だけれど能力が低かったの。ネヴァライネンの本家はカーシネン伯爵家だ。叔母様が女伯爵となって跡を継いだ。
もう一つ持っていたのが子爵家で、それをお母様に与える。その際、山と村を子爵家に分けた。その理由が、鉱山を秘匿するためだ。当時は試し掘りが始まったばかりで、何が出るか分からない。奥から金鉱脈が発見され、王家が介入した。
この国で金鉱脈は二つだけ。一つは公爵家管理になっている。子爵家が持つには危険すぎるが、王家が後見する形で収まった。この仕組みは事前に打ち合わせた結果だ。実際に契約に関わったのはお母様や叔母様だけれど、陛下からお金を受け取る理由を作ったの。
これで占い師の報酬を村や領地に還元できる。鉱山の管理収入という名目だ。金鉱脈の話が広まると、他国からの侵略を防ぐために王立軍が常駐した。隣にある叔母様の領地は王立軍との取引で潤っている。貴重な資源を手放す国王や領主はいない。
何か他に目的があるのかな? こんな要求を正面からぶつけて通ると判断するほど、隣国の王族は阿呆ではないと思うし……。気になり過ぎて、手元のカードケースを弄った。
「私がイーリス本人であると証明する、いい方法があります」
思わず声を上げる。注目される中、私はカードの入ったケースを掲げた。ヴェールで見えないが渾身の笑顔で言い切る。
「占いの能力は私だけのものですわ」
本当は叔母もそこそこ占えるし、姪も上手だけど。宮廷占い師は私だけだ。この能力を証明すれば、ヴェールを外す必要はなかった。政治的な能力は足りないが、私だって王宮の一員なのだし。ここは実力を見せつけてあげましょう。
ついでに、気になる隣国の思惑を探れると思う。ルーカス様は少し考えたが、頷いてくれた。頭の回転が速い人だから、私の考えに気づいたのかも。頼もしい。
「用意させよう」
普段は控えの間に置いている机が運ばれた。紺色のクロスが覆うテーブルは、黒檀で重い。運んでくれた侍従達に礼を伝え、その上にカードを広げた。今回使うのはアテュのみ、二十二枚を一度広げて確認する。
「仕掛けがないことをご確認ください」
シャッフル前のカードを、ステーン公爵令息に触れさせる。好奇心なのか、彼は無防備にカードを手に取って裏表を眺めた。戻されたカードを中央に置き、丁寧にまぜる。慣れた手つきでカードを纏め、裏向きに積み重ねた。上から一枚ずつ捲り、定められた位置に収める。
ああ、そういうことなのか。王とは統べる者、頂点に立ち権力を振るい……責任を取る者だった。隣国の王が何を狙って決断したのか探りながら、さらにカードを開く。最後の一枚を置いた私は緩む口元を横に引いて引き締めた。
どんなに隠しても、カードはすべてを語ってしまう。残酷なほど正確に、どこまでも正直に――。さて、この占いの結果を全員に公表すべきかしら。迷って隣のルーカス様を見上げ、私は首を傾げた。
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