26.婚約証明が二枚で重婚?

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26.婚約証明が二枚で重婚?

「君は陛下の前で、婚約証明に署名した」 「はい」  隣国に嫁がなくて済むよう、婚約済みにすると聞いた。書類が何度か二人の間を往復し、王命の形で私が折れたはず。思い出しながら頷く。 「その時の複写がこれだ」  最近できた技術で、書類の複製ができるようになった。と言っても、インクの種類が違うため複写は一目で判断がつく。偽造には使えないが、多くの人が同じ書類を手にできる便利な技術だ。新聞や本の発行技術とは違うらしい。  正直、こういった技術には疎いのだ。差し出された紙は、複製品だった。そこに記された婚約の取り決め……あ、名前がリンネアになってる!? 「そうだ。君は間違えて本名で署名した」 「えっと、じゃあ……ルーカス様は私の婚約者に?」 「混乱しているようだが、こちらも確認してもらおうか」  差し出されたのは、二枚目の書類だ。こちらも婚約に関する証明書だった。しかも、イーリスの名で署名されている。 「どちらが偽造ですか?」  さすがにここまでしたら、犯罪だと思います。そんなニュアンスを込めて尋ねる。くすくすと笑った美形は、その威力が抜群だった。近距離なので、美形に免疫の薄い私は倒される寸前だ。 「両方とも君の署名だよ。覚えていないか? 小屋敷に移動した後、足りない書類があるといって署名を促しただろう」 「ああ……って、アレですか!?」  確かに署名した。うん、間違いなく両方とも私だ。一回目にボケて本名を書き、二回目はイーリスでサインしたらしい。複写の書類をしっかり見比べ、違う部分に驚いた。  署名以外、全部同じ文面なのだ。結婚を前提に婚約します。王命ですよ、と書いてある。つまり、この婚約は有効だった。 「じゅ、重婚じゃないかな」  二人と婚約した人が、ルーカス様一人。これは法律違反だと思う。苦し紛れに思いつきを口にすれば、笑顔でさらに距離を詰められた。 「表も裏も、君は私のものだ。そうだろう? 君は一人しかいないのだから」  同時に現れてみろと言われたら、確かに詰んでしまう。国王陛下は事情を知っているわけだし、両方の署名があれば私の意思で婚約したも同然。 「なんでそこまでして?」 「前にも言ったはずだ。逃がさない、と」  いつ、そんな美味しい発言された? 食い入るように見つめ、距離の近さに顔を赤らめた。睨めっこしたら負ける予感しかない。顔がいい人は、すでに暴力だよ。意味不明な混乱の中、私はすっと目を逸らした。 「覚えていないんだね、悪い子だ」  うわぁ! もう距離詰めないで!! ここで淑女なら上品に意識を失うのだろうが、残念な占い師にそんな高等技術はない。あたふたしながら仰け反るので手一杯だった。 「まあいい、今日は許してあげよう」 「あ、ありがとう……ございます」  ふっと笑って座り直してくれたので、強張った体から力を抜いてお礼を口にした。ん? なんで私がお礼を言うんだろう??
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