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27.上手に管理されてしまった
美形と一緒は嬉しいけれど、やっぱり照れてしまう。その意味で、ルーカス様が帰った途端にほっとした。全身がギシギシ軋むほど緊張していたし。
「お嬢様、きちんとお話をしましたか?」
「たぶん」
「監禁のことですよ?」
理解していない私を見透かしたように、ハンナは釘を刺した。が、もう遅い。ルーカス様に話す前に帰してしまった。あのままいられたら、私が正気を失ったと思うからいいけど。全然聞けなかったわ。正直にそう告げると、ハンナは呆れ顔でやれやれと首を横に振る。
「本当に美人に弱いお嬢様ですね。私も帰れそうになくて、アルベルト様にご連絡した方がいいかと」
困った時の執事! まあ、宰相閣下相手に勝てるわけないが、何か手を講じてくれるかも。案を教えてくれるだけでもいい。王妃様経由で頼んでみる方法もある。手を取り合って頷き、私とハンナは手紙の準備を始めた。
家を留守にしているんだから、執事に手紙を出すのは普通だ。そう理由をつけた封書だが、ルーカス様は笑顔で配達を拒否した。部屋の掃除に来た侍女に渡したのに、どうしてルーカス様が返しに来るのか。
念の為に受け取った手紙を確認するが、開封はされていない。中身ではねられたのではなければ、なぜ配達ができないのか。素直に尋ねた。
「いいですか、イーリス。あなたの家は燃えた。子爵家に手紙を出すのはおかしいのでは?」
「あっ、本当だわ」
ここにいるのは、宮廷占い師のイーリスだ。隣国のお馬鹿さんに屋敷を焼かれ、この王宮に滞在している。それなのに、無関係のネヴァライネン子爵家へ手紙を出せば、色々まずい。
「政は私に任せて、ゆっくりしてほしい」
こう言われたら、頷くしかない。子爵家や領地の様子は、気にかけてくれると約束をもらった。アルベルトに相談する作戦は不発に終わり、私は大人しく引き下がる。
「そうそう。屋敷の寝室の家具を選んでくれると助かる。愛しい婚約者殿」
にっこりと笑顔で告げられ、ぽっと頬を赤らめる。愛しい婚約者……すごく求められている気がするわ。逃さないとか言われたし、先日読んだ小説の登場人物みたい。
閉じ込められちゃうけれど、大切に愛されて生きるお姫様。王妃様に頂いた小説の登場人物と重ね、うっとりと目を閉じた。ルーカス様を見送った私は、ハンナに指摘されるまで気づけなかった。
「お嬢様、手紙が回収されてしまいました」
あら、この後開封されたら困る。慌てて伝言を頼むものの、手紙は返ってこなかった。ルーカス様から怒られたりもしないし、捨ててくれたり……? 二日ほど悩んだが、私はこういう状況が長続きしない。
楽天的で気分屋、おっとりして鈍い。それがハンナの私に対する評価だ。長く考えても無駄なので、気持ちを切り替えた。もし手紙を見て気分を害したなら、文句を言ってくるでしょう。
久しぶりにカードに触ろうかな。ケースに収めたカードを数え、全部揃っているのを確認してシャッフルした。ひらりと一枚が落ちる。
「いけない!」
拾い上げたカードは『悪魔』、あるがままを受け入れよ? なんとなく読んだが、そのまま戻してしまった。
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