43.移動するみたいだけど、どこへ

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43.移動するみたいだけど、どこへ

 尋ねる意味を込めて首を傾げるが、王女様は何も言わずに視線を逸らした。顔を見せない不審者と思われているかも。今後仲良くなりたい私としては、不本意な状況だ。  まあ……占い師イーリスではなく、子爵令嬢リンネアとして仲良くなればいいか。それならイーリスが嫌われてても平気だね。どうせ正体をバラすわけにいかないんだし。色々考えている間に、何か決まったらしい。 「イーリスもいいですね」 「はい……」  陛下や王妃様がいる場で、聞いていませんでしたとは言えない。小さな声で同意しておいた。私に不利な話なら、ルーカス様が確認を取らないと思うし……いや、逆に確認を取る必要がある質問だった、とか? 冷や汗が額に滲む。  後で確認しておこう。  ルーカス様と部屋に引き上げ、入り口まで送っていただいた。ついでに中でお茶でも、と誘うが断られてしまう。理由は、ハンナがいないから。王宮の侍女か侍従が同席したら、さっきの話の確認も出来ない。  八方塞がりかな。明日、聞くとしましょう。挨拶して別れ際、ルーカス様が微妙なヒントをくれた。 「明日は早いですから、荷造りしたらすぐ休んでください」 「……はい」  護衛の騎士がいるので聞けない。が、どこかへ出かけるらしい。荷造りが必要なら、遠くへ行くってこと? 宰相閣下とピクニックとかないよね。それなら荷物は少ないけれど。  遠ざかっていく後ろ姿を見送り、私は大混乱のまま扉を閉めた。すぐにノックされ、王妃様の派遣した侍女達が荷造りを始める。お陰で、何を持っていけばいいか、迷う必要はなかった。ほとんどすべての私物が、丁寧に箱詰めされる。  そう、箱詰めだった。木製の箱に入れ、最後に蓋をして釘で留めていく。これは遠距離移動だ。最低限必要となる物だけ、トランクに詰める。それ以外は目的地まで開けないので、封印まで施された。行き先などを書いた紙を貼って、開けると破れるよう加工する。  荷造りを終えたのは、深夜に近い時間だった。明日は早いと言われている。長距離移動を見越して、一人で着用可能なワンピースを選んだ。侍女達も変更を口にしなかったので、これで正しいはず。行き先は明日になればわかる。  ごろりとベッドで横になるが、なんと目が冴えてしまった。いろいろ考えていたせいか。どうやっても眠くならない。これは参った。 「白猫が一匹、黒猫が二匹、マダラ猫が三匹、さび猫が……あれ? 白猫は数えたっけ?」  可愛い猫を数えて眠る作戦も失敗。ごろごろと寝返りを打っている間に、カーテンの隙間から朝日が差し込んだ。これはもう無理だ。仕方なく早いのを承知で、ワンピースに着替えた。ヴェールを用意し、占いカードのケースを布で包む。これはトランクに入れるわけにいかなかった。もちろん木箱なんて論外だ。  長距離移動の間に持ち運びやすいよう、四角い絹の四隅を縛る。結び目を持てば、バッグと同じように運べるはず。今度、専用ケースが入るバッグを買おう。姪っ子に引き継いでもいい、おしゃれなバッグを考えながら、迎えを待った。
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