49.気絶している間に終わった

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49.気絶している間に終わった

 目が覚めると、事件はほぼ片付いていた。王女様の護衛騎士ヘンリが、侵入者を切り捨てる。王女様は守られ、後ろに転倒して頭を強打した私も助かった。  こうやって纏めたら、私がすごく役立たずの足手纏いだわ。否定できないけれど。毎度大したケガもなく助けてもらうので、いつもの癖で飛び込んでしまった。王女様にケガがなくて何よりだわ。 「……うぅ、痛い」 「君は毎回無茶をする」  私の悲鳴は遠くまでよく届いたらしい。屋敷の警備を残した上で、わっと騎士が押しかけた。その中にルーカス様もいたようだ。倒れた私を発見してすぐ抱き起こし、別の部屋へ運んでくれたとか。 「重くてすみません」 「それは構わないが、ケガをしないでくれ。心臓に悪い」  血が出ていて怖かったぞ。ルーカス様の指摘に、そっと頭に触れた。ズキズキする頭に包帯が巻かれている。そっか、血が出るほどぶつけたなら、痛いのが普通かも。  いや、それより重要な部分がある。さっき、重かったよねと謝った私に「構わない」って言った? やっぱり重かったのか。最近運動していないし、温泉で長湯もしてないから、太った気がしてたんだ。ぷよぷよしてたらどうしよう。  隠れて脇腹を摘んでみる。やばい、未婚女性なのにぶよっと摘めてしまった。貴族令嬢としては、致命的な気がする。明日から食事制限しよう。 「拳を握って……痛むのか?」  心配するルーカス様へ、何でもないと両手を振って誤魔化した。話題を逸らさないと! 「狙いは王女殿下でしたか?」  いつもなら狙われるのは私だった。宮廷占い師を捕らえて情報を聞き出そうとする連中や、都合の悪い状況に追い込まれた貴族の逆恨みが多い。だが今回は王女様だと思う。 「ああ、プルシアイネン侯爵家の領地に入るのを待ったようだ。ここで亡くなれば、こちらの有責で賠償を求めることが可能だからな」  にやりと笑うお姿は悪役っぽくてカッコいい。間違いなく隣国アベニウス王国は、高い代償を払わされる。そう確信できた。余計なことしなければよかったのに。 「そういえば……」 「なんだ?」 「どうして新しい屋敷を王女様に与えなかったんですか?」  無言で驚いた顔をするルーカス様に、変なことを聞いたかな? と首を傾げる。くつくつと喉を鳴らして堪えたが、ついに我慢しきれなくなったルーカス様が大笑いした。普段澄ました顔で過ごしているから、笑いの沸点がおかしいんだろうか。 「ふっ、……くく、はぁ」  笑いをなんとか収めたのに、私の顔を見てまた笑い、やっと溜め息をついて落ち着いた。ゆっくり待つ私は心が広いよね。 「今回のような事件が起きるからだ」  省略されすぎて、意味がわからない。頭のいい人って、途中の解説や計算式を省いて、いきなり答えを出すんだもの。凡才には理解できなかった。素直に説明を求めた。 「新しい屋敷を建てると聞けば、一般的に王女殿下用だと考える。屋敷に通路や抜け穴を仕込むのに、新築は最適だ。その点、我が曽祖父が建てた小屋敷は、隅々までわかっている。安心だろう?」  なるほど。 「隣国の王侯貴族も同じように、新築した屋敷に王女殿下がいると思い込む。その逆をつくことで、欺く作戦も可能だ。さらに付け加えるなら、あの小屋敷には緊急避難通路がある」  ……政略だか策略だか知らないけれど、こういう裏を読み合う世界は私には向いてない。それだけは理解できた。
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