05.夫候補がいないのよ

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05.夫候補がいないのよ

 誘拐事件があり騎士団が動けば、当然、王家は把握している。小さなお見舞いが届いた。中は、王妃様お手製の焼き菓子だ。お茶会で何度か頂いたが、とても美味しい。感激して何枚も食べたのを覚えていてくれたのかも。  嬉しくて頬を緩ませ、枚数を数えた。皆で分けて、うまくいけば私は二枚目を食べられそう。多めの詰め合わせに嬉しくなった。 「陛下から伝言だ。早く強い夫を選べ、とさ」  騎士団長直々の伝言に、呼び出された小屋敷で唸る。この屋敷はカモフラージュ用だが、一応食器や家具はすべて揃っていた。食料以外はドレスやタオルに至るまで。定期的に王宮から派遣される侍女によって維持されてきた。  快適な客間で、綺麗に整えられた庭を見ながらお茶を口にする。お茶菓子に数枚食べてもバレないかな? でも隙間が空くか。うまく誤魔化す方法を思いつけず、私は王妃様の焼き菓子を諦めた。つまみ食いは無理そう。 「夫候補がいないので、そもそも選ぶ以前の問題です。貧乏子爵家に婿入りしてくれる、逞しく優しい殿方募集中です。あ、私の嫁入りも可能ですよ」 「それは俺らに相手を探してこいって意味か?」 「いえいえ。騎士団長様にそのようなお願いは不遜ですわ」  おほほと笑って誤魔化した。初恋の宰相閣下と結ばれたいが、まず家格に無理がある。宮廷占い師の肩書きは表に出せないため、我がネヴァライネン子爵家はただの貧乏貴族だ。お金はそこそこ貯めているが、それを公表すれば出所を疑われる。 「金ならあるだろう」 「公表できないお金なので」  悪徳商人のような言い訳に、熊のような大柄な体を揺すって大笑いされた。この人って豪快で真っ直ぐで、宮廷内で嵌められるんじゃないかと心配になる。近所の悪ガキ……どちらかと言えば、年の離れた弟みたいな? 年齢差は逆だけど。 「ルーカスと結婚したらどうだ?」 「……宰相閣下?」  ファーストネームで呼び合うほど、仲がいいなんて聞いていない。友人なの? だとしたら、こんな厄介な占い師に勧めたらダメよ。 「ああ、あいつなら守れるだけの権力と財力があるだろ」 「プルシアイネン侯爵家と私では不釣り合いだもの」  ただの子爵家、表面上は貧乏で両親がいないという条件も足される。宰相閣下なら、貧乏はないと理解してくれるけれど。家の格だけはどうにもならない。代々、有能な宰相を生み出す一族と、ただの占い師。宮廷お抱えになったのは、祖母の代からだ。  元は流浪の民が、偶然災害を言い当てた。その功績で爵位を賜っただけ。少しばかり得意技が役立っただけで、プルシアイネン侯爵家と並ぶはずがない。悲しいことに身の程は弁えていた。 「ふーん、じゃあ俺と結婚すっか」 「それは絶対に無理」 「……せめて嫌だと言ってくれ」 「どちらも同じじゃない?」  全く違うと力説されてしまった。嫌ではないと思う。ただ無理なのだ。選んだ言葉は正しい。この人と子どもを作る想像が出来ないのよね。 「国王陛下には、お気遣いありがとうございますとお伝えして」 「自分で言う方が早いぞ。王妃殿下からお茶会の誘いが来たからな。占いも頼むとさ」  ほらと招待状を渡された。王家の封蝋を確認して開くと、新しいお茶菓子をお披露目すると書いてあった。これは欠席できない。カードを清めて準備して、あ! その前に返事を出さないと失礼だわ。 「出席のお返事をしなくちゃ」  私は来客を忘れて、そそくさと立ち上がった。 「ほんっとうに、俺は対象外だな」  苦い印象のない明るい笑い声と一緒に聞こえた声に、私は「その通りよ」と返答した。お茶会は明後日、何を着ていこうかしら。
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