06.王妃様と公爵夫人のお茶会

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06.王妃様と公爵夫人のお茶会

 明るいラベンダーのドレスに銀の飾りを中心に。小屋敷から馬車で向かう。お茶会の招待状には、宮廷占い師であるイーリス・ヴェナライネンの名が記されていた。占いをご希望と聞いている。王妃様はことのほか、占いがお好きだった。  王家や国家の行方を占う国王陛下と違い、ささやかな日常を王妃様は望む。王子殿下が今年は風邪を引かずに過ごせるか、生まれて間もない王女殿下がどうしたら幸せになれるか。小さな、けれど王妃様にとっては重要な占いが主流だった。  私的なお話が多いため、お茶会に貴族夫人や令嬢が呼ばれることは滅多にない。例外は義妹に当たるムストネン公爵夫人だろうか。年齢不詳の若さを誇る公爵夫人は、気さくな人だ。構えることなく、案内の侍女について温室へ向かった。 「王妃様、お招きありがとうございます。イーリスにございます」  完全に人がいなくなるまで、上に被ったヴェールは外さない。温室はガラスで覆われているが、その内側に大量の木や茂みがあった。奥の方へ座れば、外から私の顔は確認できないだろう。それでも、安全を考えれば外せなかった。 「待っていたわ、イーリス。こちらへいらして」  手招きする王妃様に一礼し、奥の席に座った。本来上座なのだが、外から見えない位置はここだけだ。そのため、いつも同じ席順だった。 「お久し振りにございます、ムストネン公爵夫人」 「いつも通りでいいわよね、フローラ」  鮮やかな黄色のドレスを纏う王妃様は、小首を傾げる。尋ねた先はムストネン公爵夫人で、公爵家出身の王妃様にとって弟君の奥様だ。義理の妹に当たる公爵夫人と仲のいい王妃様は、オレンジのスカーフを肩に掛けていた。 「ええ、もちろんよ。マリアンナお義姉様」  応じる公爵夫人フローラ様は、黒髪の美しい女性だ。ふくよかだが、立派なお胸は正直羨ましい。髪を背に流した公爵夫人がお茶を淹れ始め、向かいで王妃様がお茶菓子を並べた。まるで私が一番の上位者のように、何もせず受けるだけ。 「いつもながら申し訳ありません」 「あら、その分占っていただくんだもの」 「当然だわ、ねえ、お義姉様」  ふふっと笑い合うお二人に釣られて、口元が緩んだ。周囲を確認して、そっとヴェールの位置をずらす。完全に外すことはないが、口元は出しておかなくては。美味しいお菓子とお茶を楽しむことが出来ない。 「綺麗な色の紅ね、どこで買ったの?」  淡いピンクの口紅だが、虹色に変化して見えるはず。口調の砕けた公爵夫人へ、安い口紅を混ぜて使う方法を教える。こんなこと話していいのか迷うけれど、別に秘密ではなかった。感心する公爵夫人は、今度試してみようと呟く。こういう飾らないところ、王妃様とよく似ている。実の姉妹ではないのに、気が合う理由は、この辺に理由があるのかも。 「今日は何を占いましょうか」  あの日も部屋に落ちて無事だったカードをシャッフルして、扇状に並べる。手に吸い付くように慣れたカードに、ふと違和感を覚えた。何かが足りないような……気の所為かしら。首を傾げた私に気づかず、公爵夫人が先に声を上げた。 「まだ秘密なのだけれど、妊娠したみたいなの。男の子か、女の子か。分かるかしら? どちらでも嬉しいけれど、早く準備したいのよ」 「まあ、私にまで秘密にするなんて。本当なの? おめでとう。元気な子ならどちらでもいいけれど、知っていたら助けになるわ」  期待の眼差しを注がれ、お祝い事なので「おめでとうございます」と言葉を添える。カードをすべて手元に戻し、丁寧に広げ直した。七十八枚すべてを使用する必要はない。アテュの二十二枚を分けて、いつも通りの手順で占った。並べた五枚に視線が注がれる。 「どうぞ、一枚を選んでください」  これで答えが出るはず……だった。
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