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07.一枚足りない……?
五枚の上で公爵夫人の手が迷う。左から二枚目を選び、そっと指先が触れた。一度選んだカードの変更は出来ない。
「捲ってください」
「どきどきするわ」
少女のように頬を緩め、顔を紅潮させながら捲られたカードは……スモールだった。そんなはずはない。カードはアテュだけを使った。どこで交じったのか。眉を寄せてしまう。
「結果は?」
「申し訳ございません。こちらはスモールカードが入ってしまいましたので、もう一度よろしいですか?」
「珍しいわね」
王妃様はにっこりと笑った。私が占いで失敗するなんて、本当に珍しいことだ。体調も悪くないし、自分でも同じような想いを抱いた。なぜ違うことに気づかなかったのだろう。
丁寧にアテュのみを選び出す。そこで気づいた。一枚足りない!
落ち着いて、稀にあるわ。きっと以前のように箱の底にくっ付いているだけ。大丈夫……言い聞かせながら箱を手に取るが、一枚も残っていない。今度はスモールを全部広げて探した。数えても並べ直しても、スモールの数は合っている。
足りないのはアテュの『運命』だ。コントロールせず流れに身を任せる意味を持つ。それが消えた。さらに先ほど表示されたスモールは、ディスクの2で『変化』を意味する。
怖ろしさに身震いした。占い師は己の運命を占うことが出来ない。もし可能なら、いつ誘拐が起きるのか調べられる。しかし己を占っても答えは出なかった。母親に禁止された時は意味が分からず、こっそり占ったことがある。そのカードは読み解けなかった。
意味がバラバラに並び、自然に浮かぶ答えがない。いつもは考えなくてもカードを見れば答えが分かった。それが読めなかったとき、恐ろしくて泣いた。母にバレて叱られる。占い師が己を占って答えを得る時は、死を意味するのだと。だから占ってはいけないよ、と言い聞かされた。
これは、私への警告? いいえ、占ったのは公爵夫人のお子様のこと。私を占ったわけじゃない。カードが足りないんだから、このカードは意味を成さない。
「どうぞお選びください」
アテュが足りないので、スモールのみで占い直した。そのため、選択肢が三枚に変更される。その中から、公爵夫人は右端を選んだ。捲ってほっとする。きちんとした答えが出たのだ。
「若君のご誕生をお祝い申し上げます」
「男の子なのね? あの人が喜ぶわ」
ふふっと笑う公爵夫人は、王妃様と大喜びしている。その奥で、私は乾いた喉をお茶で潤した。足りないカードは何を意味しているの? 私に何か大きな変化があり、力を失うという意味に取れる。恐ろしさに指先が震えた。
占い師を引き継ぐには、八歳の姪は若すぎる。伯母様は姪に力の継承が済んでいた。いま、私が占えなくなるわけにいかない。王家に知られるのもまずい。ヴェールで顔が隠れていてよかった。その後もささやかな日常の占いをこなし、お茶菓子を頂いて別れる。
どうしよう。カードは何回数えても一枚足りず、青褪めた私は案内の侍従の後ろをとぼとぼと歩く。心配と不安に押し潰されそうになりながら、送迎の馬車に乗り込んだ。
「少し、いいかな? イーリス殿」
馬車の外から聞こえた声に、ぱっと顔を上げる。憧れの君プルシアイネン宰相閣下だ。こんな時なのに、胸は高鳴った。
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