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87.あの侵入者は誰だったの?
数日後、ルーカス様とお買い物に出かけた。街中を歩くルーカス様は、いつもよりラフな恰好をしている。もちろん、私も膝下丈のワンピースを選んだ。
ルーカス様のスカーフの色に合わせ、私もラベンダーにした。銀髪だから、淡い色も濃い色も似合うルーカス様と腕を組む。街で自由に歩けるなんて久しぶりだった。
あちこちで襲われたり攫われたり、いつも騒動が付き物の私は子爵領以外を徒歩で移動しない。ネヴァライネン子爵領は、金鉱山が王家直轄になっているお陰で、衛兵や騎士が普段から常駐してくれる。安全面ではピカイチだった。
今回はルーカス様の護衛として、複数の騎士が周囲に散っている……らしい。私服で警備しているせいで、私には区別がつかなかった。子爵領の街はのんびりしていて、大きなお店はない。顔見知りばかりの街と違い、領都の賑わいは驚くばかりだ。
見たことのない果物が並び、煌びやかな宝飾店や大きな本屋もあった。きょろきょろしながら歩くので、ルーカス様と腕を組んでいないと逸れてしまいそう。
「寄りたい店はあるか?」
「本が欲しいです。それ以外は揃っていますので」
新作の小説が読みたい。以前は恋愛小説に興味が薄かったが、王妃様やムスコネン公爵夫人にお借りしたら、ハマってしまった。王宮に監禁された時期に増えた趣味だ。そう伝えると、困ったような顔で「あの時は悪かった」と謝られた。
私の安全のための監禁なので、気にしていないと伝える。本屋の扉を開ければ、インク特有の香りがした。心地よい匂いじゃないけれど、何となく落ち着く。ずっと書棚に並べていると薄れるから、新しい本が並ぶ本屋ならでは、だろう。
新作が並ぶ入り口近くの棚を一度通り過ぎ、奥の本棚を眺める。いくつか知らない作家の本を手に取った。それから新作もきちんと確認する。ルーカス様も難しそうな本を何冊か購入した。全部合わせて屋敷に送る。
外へ出て、お店で食事をしようと提案された。断って、屋台やお店で購入した料理を運び、街の大通りにある噴水のそばへ移動した。ここはベンチがあって、自由に誰でも使えると聞いている。情報源はエルヴィ様だ。
木製のベンチはしっかりしているし、丸いテーブルもあった。並んで座り、食事を始める。両手で掴んで齧り付く料理ばかりだった。串刺しの魚、パンに肉と野菜を挟んだもの。飲み物のコップは、後でお店に返す必要がありそう。
「それで? 何か聞きたいんだろう」
さっさと言ってしまえ。そんな口調でルーカス様に促され、バレていたかと笑う。
「先日の侵入者ですが……誰ですか?」
心当たりがありそうだった。私は薄めた果汁のカップを傾ける。半分ほど飲んで、テーブルに置いた。代わりに串刺しの魚を齧る。お腹から豪快にいくのが、屋台のルールよね!
「ステーン公爵家の次男だ」
「……スッテン……」
そんな名前の人、いたかしら。考え込む私の隣で、なぜかルーカス様の機嫌が上向く。満面の笑みで答えをくれた。
「隣国から求愛に来て、罪人として返送された男だ」
「あ! 顔見てないのに一目惚れを主張した人!!」
あの人、殺害されたんじゃなかったの? 疑問を素直に口に出せば、意外な事実が判明した。地位が高かった罪人って、使い道があるのね。
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