92.結婚式は三度目の参加です

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92.結婚式は三度目の参加です

 周辺国から管理者が派遣され、しばらくは監視される。その条件を、新国王は受け入れた。これによって、アベニウス王国は、新しく生まれ変わる。国名は来月には公布される予定だと聞いた。 「国名を変更するんですね」  驚いたと呟きながら、ハンナが焼き菓子を並べる。その隣で、私は花瓶の位置をずらした。ここで倒れると料理が水浸しになるから、もう少し奥ね。後ろの窓を開ける予定はないので、カーテンが揺れて倒す可能性は低かった。 「奥様、こちらもお願いします」  ハンナと二人で大皿をぐるりと回した。一人でもできる作業だが、テーブルクロスが皺になる。ここまできて料理を落としても勿体ない。大皿の向きを確認し、頷いた。 「これでいいわ」  前日から準備した料理を、早朝から使用人総出で並べた。夜明けの清々しい空気を堪能しながら、満足して額の汗を拭う。その手を掴んだ侍女に「奥様は準備があります」と引っ張られた。ハンナも同様に準備が待っている。  今日のハンナは侍女ではなく、リーコネン子爵夫人として参加する。侯爵家の侍女の中で、まだご令嬢の肩書きを持つ者も着替えに向かった。  単純に貴族の数が足りていないの。私が呼べる貴族なんて、両手の指程度よ。ハンナはもっと少ない。一応、トゥーラ様がご友人を呼んだらしいが、ほとんどが貴族ではなくなっていた。国王夫妻やムストネン公爵夫人が参加してくれるので、格は保たれた。  一人でも多くの貴族令嬢や令息の参加を呼びかけたため、ソイニネン伯爵も騎士団長の仕事中なのに、伯爵扱いで参加となっている。騎士団の護衛からも、伯爵家の次男や子爵家の末っ子など。肩書きが残っている者をかき集めた。  私に人望がなくて申し訳ないわ。ルーカス様は貴族のお知り合いは多いが、今回は元王女様という事情が手伝い、やたらな貴族を呼べなかった。いろいろ難しい事情が複雑に絡まった結婚式は、あと数時間で始まる。  さっと汗を流し、大急ぎで肌を整える。髪を結って髪飾りを刺し、お飾りやドレスを装着した。着やすいように、前日工作した作戦は成功だったわ。すっぽりと中に入り、肩を通して背中を一気に塞ぐ。突貫工事だけど、それなりに様になったみたい。 「お疲れ様です、奥様。こちらをどうぞ」  飲み物を有り難く受け取り、一気に飲み干した。すっきりしてて美味しい。お礼を言ってコップを返せば、今度は侍女達が着替えに飛び出した。彼女らも着飾って参加し、基本はセルフサービスの宴会を予定している。  領民も今頃、大忙しで着飾っているだろう。参加打診したら、誰もが店を閉めて駆けつけるんですもの。子ども達に教育を施す先生として、二人が慕われている証拠だった。 「愛されてるなぁ」  ふふっと笑い、ルーカス様の待つ階下の食堂へ向かう。執事も今日は参加者だから、いつもより洒落たシャツを着ていた。上着は途中で替えるのかな。  食堂の扉を開き、この屋敷で三度目の結婚式のために夫の手を取る。 「じゃあ、楽しみましょう」
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