お風呂の日

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お風呂の日

「ぼく、今日はソラと一緒にお風呂入る」 小学校に入ったばかりの弟、波千の思いつきに、その下の弟、幼稚園に通うようになった陸は「ぼくもー」と、ぴょんぴょん飛び跳ねた。  歳の離れた、可愛い弟二人に、リクエストされ、空知は嬉しそうに「よーし!入るぞー!」とやる気満々だ。  その様子を見ていた海人は、少々面白くなかった。  それが、無邪気な弟に対してなのか、弟に慕われている、空知に対してなのかは、わからなかった。  海人と空知は、兄弟だ。 親の連れ子同士で、血のつながりはない。 一週間前に、気持ちを伝え合い、恋人同士になったばかりだ。 「何で、今日は空知とはいるの?」 いつも、二人の弟を風呂に入れている父 栄が、寂しそうに、二人に聞いた。 「ソラ、グイーンて、みんなよりずんずん早くて、水の上を飛んでるみたいで、カッコいい 「ソラ、羽ついてた! お風呂で見る! 」 弟たちは、まだ舌ったらずな発音で、空知をソラとよんでいる。  今日は、空知の水泳部で、地区大会があり、弟たちは、その試合の応援に行ってきた。  空知の泳ぎに感動したらしい二人は、目をキラキラさせて、ぎゅっと握り拳を作って力説している。 「あらあら、大変。空知に羽があったら飛んでいってしまうかも、二人とも、空知が飛んで行かないように、ちゃんと捕まえておいてね」  母 久美が、二人を焚きつける。 「うん、わかった、捕まえておく」 波千が、胸を張って、任せろアピールをした。 「ぼくも! 」 陸も、ぴょんぴょん跳ねて、アピールした。  そして、三人は、仲良くお風呂に、入ることになった。 キャッキャと、はしゃぎながらお風呂に入る。 ひとしきり、水かけっこなどで、遊んだ後。 空知は、陸を先に洗って、久美さんに渡した。 そのあと、波千を洗って、お風呂からだそうとしたが、久美さんは、まだ陸の着替えを手伝っていたので、波千のタオルを持って、海人がやってきた。 「あっカイだ、カイもお風呂はいったら?ソラに頭洗ってもらうの気持ちいいよ」 「そうだな、波千にパジャマきせたらな」 「ぼく大丈夫、頭拭いてくれたら、ひとりでできる」 そういって、ホカホカにあったまった波千はまた胸をはる。 海人は、波千をタオルでくるんでゴシゴシ拭くと、頭もざっと拭いた。 「ありがとう、カイ。もう大丈夫」 そう言って、波千は行ってしまった。 「だって! 海人、こっち来いよ」 「いいよ、後で入るから。空知も早くあがれよ」 「いや、折角だし」 そういって、風呂の水を思いっきり海人にかけた。  海人は、ずぶ濡れになって、あっけにとられた。 そのすきに、空知は、湯船から出て、どんどん海人に近づいた。 海人の着ていたTシャツを脱がせ、ズボンのボタンに手をかける。 「ちょっと…」 「いいじゃん」 戸惑う海人の目を、覗き込んで、なおも空知は続ける。 空知は、海人に抱きついて、耳元で静かに話した。 「俺、今日がんばったよ、見てた?」 空知の声が、左耳から聞こえるたびに、背中がぞくぞくした。 そのまま、するすると服を全部脱がされ、風呂の中に引き込まれた。  向かい合って湯船に浸かる。 高校生男子が、二人で入るには狭いので、お互いの足の間に足を絡める。 何も着ていない素肌で、お互いの熱を感じる。 「…… 空知」 「ん?」 「羽どうした?」 「へ?」 「羽生えてた、俺にも見えた、どこかへ飛んでいっちゃう?」 「まだ、いかないよ。いつか攫って飛ぶから、待ってて」 真っ赤に なって俯いた海人の顎を人差し指で上に向ける。  空知は、海人の潤んだ目を正面から見てしまった。 そのまま、捉えられて、視線を外すことも出来ない。 心の中全体が、海人で占められて、痺れが甘く体中を駆け回る。 「海人、洗ってあげる」 空知の声が熱を帯びて、低く響いた。  さっきまで、どうしていたのだろう、息の仕方さえ怪しくなって、思い出せない。 「だめ」 「じゃあ、洗って」 二人は湯船からでた。  さっきまで、波千が使っていた、ちいさなイスに空知がすわって、その後ろに海人が座った。 海人はシャンプーをモコモコに泡立てて、しっとりと濡れた空知の髪を洗った。 「痒いところありませんか?」 理容院で聞かれるように、空知に聞く 「どこでもいいの?」 「顔まわりでお願いします」 「じゃあない」 「まったく …… 流すよ、上向いて」 立ち上がった海人は、シャワーで生え際から丁寧に、泡をながした。 「海人」 「何?」 「気持ちいい」 可愛らしく目を瞑ったままそう言うので、海人はクスクス笑った。 「そう?良かった…… 体も洗ってあげる」 スポンジを手に取った海人は、ボディーソープをつけて、またモコモコに泡立てて、背中を、羽の生えていた辺りを念入りに撫でた。  背中を洗いおわると、そこで空知がくるりと海人に向き直った。 海人の手から、モコモコ泡を奪い取ると、海人の鎖骨辺りにそれをたっぷりと塗った。  スポンジに、ソープを足して泡立てると、海人の身体につけていく、直接手で海人の体を撫でるように洗い始めた。  肩、腕、胸、腹、臍のあたりをやわやわと洗い、膝に飛んでその下の、足首、足のひら、指の間まで丁寧に洗った、足を高く上げられるので、海人は後ろ手に手をついて、転ばないように耐えた。  「ちょっと、空知」 「後は、大切な所…… 覚悟はいい?」  空知が、怪しげに下から舐め上げるように見上げた。 海人は思わず、息を止めて空知を見る。  空知の目が、赤く染まっているように見えて、捕獲者からのプレッシャーに押しつぶされそうになる。 足を取られたまま、自由にならない体をひねる。 それでも、空知は、逃がしてくれそうにない 空知の手が、膝からなぞるように上がってくる  突然、大きく浴室のドアが開いた。 そこに居たのは仁王立ちした妹、風花だった。 「いつまで遊んでんの! わたしもお風呂入りたいの! 海人も空知も早く出て! 」  泡まみれの兄二人を、みおろしながら、風花は威厳たっぷりに言った 「「ごめんなさい」」 泡まみれの兄二人は、小さくなって謝った。 「アハハハ……」 春馬は、腹を抱えて笑っている。 空知は、出かけた書店で、偶然出会った春馬と、駅前のバーガーショップに来ていた。 『何か面白い話はないか』ときかれたので、つい先日、我が家で起こった大事件を、春馬に聴かせてやった  「風花ちゃんに決定的なところ、見られなくて良かったじゃん」 「そうだけど…」 春馬は涙を流しながら笑っていた、一呼吸置いて、氷がだいぶ溶けた飲み物を一口飲んだ 「その後どうしたの?」 「慌てて、二人でシャワーで流して、風呂をでたよ。 それ以来、海人のガードが硬くなっちゃって、部屋にも入れてくれないの」 「まぁ、空知のせいだから仕方ない」 「『二人になりたい』と、思わないのかなぁ」 「思っちゃうから、部屋に入れてくれないんだと思うよ」 「それって…」 春馬は、目線だけ上げて、意味あり気に、空知を見た。 空知は思い巡らすだけで、にやにやが止まらなくなった 「エロい顔」 春馬に言われて、空知は手でにやける口を隠した。 「まぁ、節度をもって、学生らしいお付き合いをお願いします」 春馬は、まじめ腐った顔で言った 「お前がいうなよ」 空知が、嫌そうに返事をすると、春馬はやっぱり、楽しそうに、豪快に笑った。
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