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次の日、朝早くトラックがやってきて、海人と空知の荷物を運んでいった。
他の人と荷物を乗り合わせて、引っ越し費用を抑えるらしい。
トラックが早く出ても、荷物が届くのには時間がかかるので、海人と空知は、ゆっくりと食事をして、電車で新居へと向かう。
駅に向かう二人を、栄と久美は涙目で見送り、風花や波千、陸は遊びに行く約束をしていた。
軽く手を振って、二人は月島の家を出て行った。
引っ越し先に着いた海人と空知は、頼んでおいた家具や家電、引っ越し荷物が来るのを待っていた。
水道、電気の業者が一番初めに来てくれて、それぞれ立ち会った。
家具業者が先について、ベッドやソファ、食卓、食器棚、テレビボードなどが届いた。
次に引っ越し荷物が届いた。
主な荷物は、着替えと、本などの細々したもの、久美が心配して持たせた、炊飯器と電子レンジだ。
最後に、家電量販店から、洗濯機、冷蔵庫、エアコン、テレビ、照明器具が届いた。
荷物を片付けながら、隣と下の階に挨拶に行った。
まだまだ散らかっている部屋に、西日が長く差し込んで、海人は片付けの手を止めた。
ベランダに出て、夕日を眺める。
「疲れた? 」
後ろから空知に声を掛けられて、振り返る。
「ちょっと、疲れた。初めてのことばっかりだから」
「そうだね」
空知も、片付けの手を止めて、ベランダに立った。
「今夜から、二人きりだね」
海人は照れくさくて、空知の顔を見ずに言った。
「うん、やっとだね」
空知は嬉しくて仕方ないといった様子で、海人の顔を覗き込んだ。
「学校が始まるまで、あと三日あるから、ゆっくり片付けよう、今日はとりあえず、寝られるように成ればいいよ。
飯食って、風呂入って、そしたら」
空知は、色気だらけの視線を、海人におくって、海人のベランダの手すりに乗せた手をするりと撫でた。
「仲良くしよ」
「仲良く? 」
「そう、今までできなかった仲良く」
空知は、指を絡めて海人の手を握った。
海人は恥ずかしそうに、チラリと空知を見る。
海人の様子を見て、空知はクスクスと笑う。
空知がクスクスと笑うので、海人は益々赤くなった。
「海人、ベッド整頓しておいて、俺、コンビニ行って飯買ってくる」
「うん、わかった」
海人の手を引いて、部屋の中に入ると、空知はベランダに続く大きなガラス戸を閉めた。
二人は、二部屋ある片方を机と本を並べ勉強部屋にして、もう片方にベッドを置いて寝室として使うことにした。
寝室を同じにしたいと、空知が譲らなかったからだ。
海人は寝室には少し大きなダブルベッドが入れられていて、それを見ているだけで、海人は少し恥ずかしくなった。
寝室に使う部屋には、大きなクローゼットがあるので、衣服の箱などが沢山詰め込まれている。
海人はまず、足の踏み場もないほど積まれている箱を、丁寧に分けた。
通り道を作ると、ベッド周りのシーツや枕を、部屋のあちこちから探し出して、ベッドの上にまとめた。
包装紙を開けながら、ゴミを片付ける。
ベッドメイキングを済ませると、衣服の箱から、下着やパジャマを取り出して、ベッドの上に置いておく。
キッチンに移動して、ヤカンを見つけ出すと、コンロの上に置く。
少しだけ実家から持ってきた、食器の箱の中から、マグカップを探し出す。
大学に合格して、下宿が決まった頃に、二人で買ったマグカップだ。
それをしみじみと眺めて、海人は自分でも気づかないうちに笑っていた。
「ただいまぁ」
「おかえり」
海人の声を聞きつけて、空知は真っ直ぐにキッチンにやってきた。
「おっ、それ出したの? 」
「うん、使おうと思って、飲み物有る? 」
「お茶ならあるよ」
空知はコンビニの袋から、お茶を取り出すと海人にわたすと、コンビニの袋から、お弁当を取り出して、電子レンジに入れた。
空知の買って来た袋は思ったより大きくて、海人は何げなく袋の中を覗いた。
明日の朝ごはんだろう、食パンと玉子、サラダなどが入っている。
それらを冷蔵庫に入れようと取り出していると、袋の中に他のものが入っているのを見つけて固まった。
袋の中には、派手な色の、大きく吸う字の書かれた箱が三つも入っていた。
「こっ……、こっ! これ! 」
「アハハ! 必要だろ」
「こっ、こんなには要らないだろ」
「俺の期待度で行けば、全然足りないよ」
「なっ、は? バカか! もう! 」
慌てる海人を、楽しそうに見ながら、空知は距離を詰めた。
「いいじゃん、朝からずっと我慢してンだから、ちょっと味見していい? 」
空知は、海人の両頬に手を添えて、優しく唇を合わせた。
軽く合わせるように、何度もついばむ
「あぁ…… 」
呼吸のタイミングを失って、海人が小さく声を漏らした。
その小さな喘ぎ声に、空知の体温は一気に上がった、耳の後ろ側で、自分の血が騒ぐザザアという音が聞こえた。
海人の下唇を噛んで、口を開けさせる。
薄くあいた唇にかみつく様に、舌をねじ込ませる。
慌てて下がろうとする、海人の頭を抑えて、クチャクチャと音がするほど舌を絡め合う、海人の耳をわざと塞ぐ。
空知に耳を塞がれると、二人でたてた水音は頭の中にこだます。
頭の中に響くその音に、脳も体も侵食されていく、膝の力が抜けて、空知に縋り付くと、空知が慌てて支えてくれる。
「この時を、ずっと待ってた」
空知の言葉が、力の抜けた体に、電流を流すように刺さる。
海人はただ、空知を見上げて、ハクハクと口を開ける。
ピーピーと、電子レンジの音がして、海人と空知は、はたと目を見あわせた。
「お腹空いたよね、とりあえず食べよっか」
空知は出来上がりの音のなった電子レンジから、温まった弁当を出した
「蕎麦にしようかとも思ったんだけど、なくってさぁ」
引っ越し蕎麦なら、ご近所に配るのではないだろうか…… と思いながら、海人は頷くだけにした。
マグカップにお茶をついで、手を合わせて弁当を食べた。
「ご飯当番もきめとかないとなぁ」
家事の分担などを、色々と話しあった。
一週間おきに食事当番を代わる。
食事当番ではない方が、洗濯と風呂掃除をする。
そのほかの部屋の掃除などは、週末に二人でする。
学校の予定などでできないときは、その都度話し合う。
「海、風呂いこっか」
食事を終えて、空知がそう言った
「…… 着替えとタオル、ベッドの上… 」
「ありがと、気が利くね、ちょっと待っててね」
そう言うと、海人をその場に残したまま、空知はコンドームを一箱持ち、寝室に向う。
コンドームの箱を開けて、一つをポケットにねじ込む、もう一つを海人が気にしないだろう場所へ隠し、残りはサイドチェストの引き出しにしまった。
着替えとタオルを持つと浴室に移動し、湯船に湯をためるボタンを押した。
さっき買って来て、玄関に置きっぱなしにしていた買い物袋の中から、ローションとシャンプー、コンディショナ―、ボディソープなどの浴室で使うものをそこに並べた。
並んだボトルをしばらく眺めて考えたが、始めからベストな場所を見つけるのは難しいと思いそのままにする。
キッチンに戻って、海人の手を引いて浴室に移動した。
「お風呂入るの? 」
ぼんやりとしたままの海人は、空知にされるがままになっている。
「うん、そうだよ」
空知は、海人の服を丁寧に脱がせながらそう言った
空知の様子に、愛おしさがこみあげてきて、ギュッと強く抱きしめた。
海人の腕が、空知の首にまわり、そのまま頬を摺り寄せる。
「俺、空知に甘えてるね」
フワフワとした海人の言葉が、温かくしっとりと空知を包み込んだ。
きっと、煽っているつもりも、誘っているつもりもないのだろう。
ニコニコと楽しそうなその笑顔に、可愛いリップ音をたてて沢山のキスを送る。
「空」
海人が名前を呼ぶのを聞きながら、
頬にキスをする
「空」
鼻先にキスをする
「空」
瞼にキスをする
「空」
丸いおでこにキスをする
「ここがいい」
海人は自分の唇を指さす。
その仕草に完全にやられる、クラクラと頭はうまく回らない、望まれるままに、唇にキスをする。
うっすらと開いた唇を、なめて、そのまま口の中まで舌を潜り込ませる。
遠慮なく全部を味わう、角度を変えて何度も、今まで堪えて来た全てを取り戻すように、急に海人の身体が弛緩する。
慌てて支えて、海人を見ると、涙目で、空知を見上げていた。
どうやらキスだけで達してしまったようだ。
丁度いいと、空知は海人の服を全て取り去ると、洗濯機に放り込む、自分の服も適当に脱ぐと、ズボンにねじ込んだゴムだけそっととりだして、同じように放り込む。
浴室に入ると、シャワーで体を清めた後、すぐに浴槽に二人でつかる。
海人を後ろから抱きしめて、足の間に座らせる。
恥ずかしがって、小さく唸っている海人をよしよしと撫でる。
「かわいいよ海人」
「…… かわいくない」
「俺にとっては、世界一可愛い、俺とキスして気持ちよくなってくれたんでしょ、そんなこと気にならないくらいメロメロにするから、覚悟して」
慌てて振り向いた海人に、空知は満足そうに笑った。
後ろから抱きしめたまま、空知は手を伸ばす、海人のペニスとチュコチュコと撫で上げる
「そら…… 」
「うん」
空知は、海人のうなじに唇を押し付ける。
海人が身もだえる度に、湯船のお湯が跳ねる。
「もっ、イッタ…… イッタばっかりだから…… つらィ、離して」
「何度でも、イっていいよ…… いっぱいしよ、俺たち、ずっと、今日を待っていたんだから」
「あっ、あぁ…… まっっ、まってぇ…… 」
「無理」
空知の手に翻弄されて、海人はくったりと、力が抜けて、空知に寄り掛かった
「ベッドに、連れて行くね」
空知は、海人を湯船からあげると、手早く体を拭いた。
海人は、体中を赤く染めながら、空知の手を握った、恥ずかしそうに、上目遣いで伺う。
「そらぁ、待って…… 俺も、俺もしらべたよ、どうすればいいか…… どうすれば、空知とソウユウコトできるか、あの…… しっかり洗わないといけないから、空は先にベッドで待ってて」
その言葉に堪らなくなって、空知は海人を抱きしめた。
「俺がするから」
「ダメ! 見られたくない! 絶対ダメ! 」
「でも、もう海人、クタクタじゃん」
「できるよ! 一人で大丈夫!」
「でも…… 離れたくない」
「え? 」
「今日、挿れなくてもいい」
海人はポカンと、空知を見る。
「今日じゃなくてもいい、海人とくっついていたい、ただ、抱き合って眠るだけでイイ、沢山キスできればそれでイイ」
もがく様に、空知は海人の身体を手繰り寄せる。
腕の中に閉じ込めて、余すところなく肌を寄せる。
「海、こうしていよう」
「うん」
二人はベッドに移動すると、何も身に着けない素肌のまま、抱きしめ合って、足を絡め合って、何度もキスをした。
お互いの高まりを感じて、こすり合わせて、触れあった。
飽きることなく味わった、何度も、何度も繰り返す。
何度目かの欲を放ち合って、くったりと力がぬける、意識を飛ばすように海人が眠ってしまった、空知は海人を抱きしめたまま、海人の息の音を聞いた。
目を閉じているからなのか、いつもより幼く見える海人をじっくりと眺める。
そのまま、幸せな気持ちのまま、ゆっくりと深く匂いを嗅いだ。
腕の中に閉じ込めた大切な恋人にほおずりする。
「明日も、一緒に居よう、明後日も、その次もずっと」
眠っている海人の口がムニムニと動いて、笑っているようだった。
その寝顔に、心底安心して、空知も目を閉じた。
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