明るい朝は、トーストの匂い

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  次の日、俺たちは家に帰ってきた。  玄関を開けると、心配そうな顔の久美さんが立っていた 「おかえりなさい」 「ただいま」 俺は、久美さんにこたえて、俺の後ろについてきた海人を、振り返った。 「海人の眼が腫れてるのは、俺が海人を泣かしちゃったからなんだ…どうして泣かしちゃったかは、ちゃんと話します。 父さんと久美さんに聞いてほしいことがあるから」  その日の夜、俺たちはテーブルに座って、静かに誰かが話し始めるのを待った。  まぁ、俺だよね「話がある」って言ったの俺だから。 俺は、大きく息を吸って、自分を落ち着けて口を開く 「俺なりの、このお試し生活の感想を言います」 父さんと久美さんが、息を止めた気がした。 「俺は、海人と久美さんと、一緒にこのまま暮らしてもいいと思ってる。 それで…… 教えて欲しいんだ、二人はどうして結婚したいと思ったの? 俺たちの為? 自分が幸せになりたいから? 」 「…久美さんが好きだからだよ、海人君と空知と、四人で幸せになりたいんだ」 「父さんが幸せになれるの?」 「あぁ」 父さんは、静かに深く頷いた。 「父さんの幸せに、俺は必要?」 「あぁ、絶対に必要だ」 父さんがあんまり真っ直ぐ俺を見るから、少し恥ずかしくなってうつむく 「海人も?」 「もちろんだ、海人君と空知がいないと、幸せになれないよ」 「じゃあさ『海人』って呼んでよ」 「…そうだな」 父さんは照れ臭そうに笑った 「海人は、聞きたい事、有るかい?」 父さんの視線に気づいて、海人は顔をあげた。 「…… お母さんは、寂しがりやです。 本当に大事にしてくれますか? 絶対にお母さんを泣かせないって、誓ってくれますか? 」 「…もちろん、誓うよ」 「僕のお父さんが死ぬとき、僕、お父さんからお母さんの事、頼まれました」 「うん」 「僕のお父さんにも誓ってくれますか?」 「はい。誓います、必ず幸せにします、絶対に泣かせません」 「じゃあ、僕の役目は、もう終わりでいいですか? 」 父さんがしばらく海人を見つめたまま、動けなくなってしまったようだった 「…駄目よ」 今まで黙って、俺たちの話を聞いていた、久美さんが唐突にそう言った。 「駄目よ、海人が頼まれたじゃない」 「…… そうだけど、僕じゃ上手くできないから …… お母さん、一人で泣いてただろ…」 「泣いてないわ! 海人が一緒じゃなきゃ嫌よ、幸せになれないわ」  久美さんのその言葉を聞いて、俺も『はっ』とした、海人が聞きたかったのは、そうじゃないと思う、それじゃぁ上手く伝わらない。 「…久美さんが、頑張って、海人と二人で生活してきたのは、それが楽しかったからでしょ」 「そうよ、海人と一緒だから幸せなの、楽しいの」 久美さんが立ち上がって海人を抱きしめた、ギュウギュウ抱きしめて、無茶苦茶に泣いていた。 「海人が嫌ならやめるわ! 」 「…… 嫌じゃないよ」 「じゃあどうして!」 久美さんは、叫ぶようにそう言って、海人に縋って泣き続けた。  なんかすっごく寂しくなって、いかないでほしくて、俺も海人にくっつけるところを探して、海人にしがみついた。 「海人がいないなら! 俺もやめる! 楽しくない! 」 父さんが、俺たち三人んをまとめて抱きしめた。 それでよく分からないけど、四人でワーワー泣いた。  ひとしきり泣いたら、なんだかみっともないなって思って、そうしたらおかしくなってきて、泣きながら笑った。  そしたらすごくおかしくなって、皆で笑った。  それで四人で決めた。 1、 俺たちは、四人で家族になる。 2、 『お父さん』や『お母さん』とは呼ばずに、皆名前で呼ぶ、敬意をもって呼び合う。母ちゃんの事も美桜さんて呼ぶことにした。 3、 海人のお父さんのお墓参りは、全員で行く。 4、 遠慮しないで、ブドウ園には行ってもいい。 5、 必要なことは、その都度話し合ってきめる、黙って我慢しない。  まぁ、とりあえずはこんなところだ。 後で、熊さんと美桜さんに、電話でこの話し合いの結果を伝えよう。 きっと、喜んでくれると思う。
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