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クリスマス・イブ
「今夜くらい夫婦水入らずで過ごした方が良いんじゃないですか?」
二杯目のオールド・クロウを空けようとグラスを持ち上げた所で、ナナが見かねた様に言った。綺麗なアーモンド型の瞳には、責めるような色がある。
『ティアドロップ』というこの店の名には相応しい女の子だと、ぼくは以前から思っていた。
艶のある黒髪の所々に金のエクステを付けていて、眉の所でぴたりと揃えられた前髪は今時の女の子の外見だけれど、所作やしゃべり方には下品な所はなく、このバーともスナックとも言える小さな店に収まりが良かった。
マスターの後藤さんの教育がしっかりしているのだと、ぼくと同じくこの店の常連で、近隣の出版社に勤める編集者の谷垣くんは言っていた。ぼくはそうは思わなかった。これは彼女自身が元から身につけているものだ。
「ぼくみたいな客が居ないと、君も困るだろう?クリスマスイブなんだから」
「あたしはお仕事ですから」
ナナは自分の胸元にそっと白い指先を当てた。濃いワインレッドの、少し光沢のあるワンピースを着ていた。クリスマスカラーという事かもしれない。
「彼氏とかいないの?待ってる人は」
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