再会

3/5

4人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
 その日以降、彼女とは一切連絡を取ることなく十年の歳月が流れた。今思えば東京の住所を聞いて文通でもしておくべきだった。だが、当時の彼にはそんなことを考える頭がなかったのだ。  彼は地元の国立大学に進み、物理学科に所属していた。男ばかりの環境に身を置いていたため、恋人はいなかった。  ただし、女性関係で全く縁に恵まれなかったわけではない。ごく普通の学生のように合コンやデートをした。それに告白をされたこともあった。しかし、幼い頃に愛を誓い合った彼女の顔が常に頭に浮かんでいたため、他の女性に目がいかなかったのだ。  ある日、彼の同級生が雑誌を開いて見せてきた。  それに目をやると、『新進気鋭の女優』という見出しと共にある人物が写っていた。彼は、すぐに彼女だと気づいた。くっきりとした目鼻立ち、白い肌などの特徴を残し、何より彼女の本名が記載されていたからだ。  久しぶりに彼女の顔を見られた喜び、芸能人になったことを知った驚き、色んな感情が混ざり合い彼の胸は熱くなった。  彼は同級生から雑誌を奪い取り、さらに目を通した。すでに何本かのドラマに出演しているらしく、一ヶ月後に彼女がヒロインを務めた恋愛映画が公開される、との内容が書かれていた。これは絶対に観なければならない、と彼は強く思った。  その日からネットを使って彼女のことを調べた。趣味、特技、休日の過ごし方などだ。知っていることもあれば、新たに発見できたこともあった。  中でも、彼が目を引きつけられたのは、彼女の生い立ちについて迫ったインタビュー記事だった。そこには、彼と彼女が幼い頃、一緒に過ごした日々について詳細に綴られていた。  女優がこんなことを赤裸々に話して大丈夫なのか、と心配になった。しかし、昔のことを覚えてくれていたんだと知りとても嬉しくなった。同時に誰かに自慢したい欲がこみ上げてきたが、とどまった。二人だけの思い出にしたかったのだ。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加