再会

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 彼は映画館のロビーを走っていた。どうしても観たい作品の上映開始時刻に遅れそうだったからだ。  途中、トイレの標識が視界に入り、用を足そうかと迷った。だが、数時間は大丈夫だろう、と思って素通りした。  すぐに目的のホールに着き、予約していた席に腰を下ろした。はぁ、はぁ、はぁ、と彼は息を漏らした。脈拍が上がっていたのだ。  スクリーンに顔を向けると、近々公開される映画の予告が流れていた。本編には何とか間に合ったらしく安堵した。  これから観る作品はいわゆる恋愛モノだ。幼い頃、離れ離れになった幼馴染の男女が大人になって再会し、そこから二人の関係が深まっていくという物語らしい。  ヒロインを務めたのは、今年デビューしたばかりの新人女優だ。彼女の年齢は二十歳。彼と同い年だ。  小さい丸顔にくっきりとした目鼻立ちで、黒く艶のある髪は背中まで優しく垂れている。白く透きとおるような肌にはシミが一切見られない。身長は百五十センチを少し越えたくらいだろうか。女性の中では小さめな方だ。  そのように可愛らしく愛らしい容姿が世間の注目を集めた。特に男性からは非常に支持されている。最近では、電車の広告や雑誌の表紙など、数多くの媒体の色を飾っており、彼女の顔を見かけない日は無いに等しい。まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだ。  彼がこの映画を観に来た目的は、彼女の姿を自身の網膜に焼き付けるためだ。といっても、特段芸能人に興味があるわけではない。それに流行に踊らされているわけでもない。  では、なぜ今スクリーンを一望できる席に座っているのか。それは、彼女が彼の幼なじみで特別な存在だからだ。
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