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 二人がけのソファに並んで座る二人の間には、拳一つ分よりもちょっと大きめ、だいたい十五センチぐらいの隙間があいている。二人で過ごす時間が増えても、それははじめと変わらない。 これが夏樹と悠人の距離だ。  友達同士でもなければ、もちろん恋人同士でもない。先輩後輩という呼び方にも違和感 があるし、隣人と呼ぶのはよそよそしすぎると思う。 そんな夏樹と悠人の二人の関係を表しているような、近くも遠くもない、絶妙な十五センチの距離。届きそうで届かない、もどかしいけれど、ちょっと安心する境界線。 「あ、お前大阪×チャレンジャーズの6巻買ったの?ちょっと読ませて」 「ダメです。俺もまだ読んでないんですよ。俺が読んでからにして下さい」 「早く読まないと、その間に全巻表紙と中身入れ替えてやる」 「下らない嫌がらせしないで下さい。上目遣いで見てもダメです。俺にはその手は効きません」 「やっぱダメか」 「分かってるなら試さないで下さい」 「ちょっとぐらい、なびいてくれてもいいんじゃねえの?」  取り留めもない話をして何か特別なことをするわけでもなく、時には朝までだらだらと過ごす。そんな目的の無い曖昧で自由な二人の時間を、夏樹は割と気に入っている。  悠人と共有する時間は、無為に積み重なっていくだけだったモノトーンの日常に加えられた差し色だ。 「今日泊ってっていい?」 「いいですよ。明日何限からですか?」 「二限に英語がある。落としたらヤバいやつ」 「俺、一限あるから先に出るんで、自分で起きて行って下さいね」 「んー。だりいな。起こしてくれよ」 「そこは頑張って自分で起きて下さい」  そう言って突き放すけれど、悠人はきっと二限に間に合うように目覚まし時計をセットしておいてくれるはずだ。  今では、まるでずっと前からこうだったかのように、悠人は夏樹の日常に当たり前に存在している。 別々の場所にあった二人の日常が交差したのはちょうど一か月前、夏が終わり時を見失っているうような残暑の続く九月のことだ。
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