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その時、夫が心配そうにこちらを見た。
夫のその優しい眼差しを感じると、
堰き止めていたものが一気に溢れ出して来る。
私は声を出して泣き出した。
こらえていたものが一気に溢れ出し、もう止められない。
カーラジオから流れる切ない曲が、
さらに一層私の中の悲しみを引き出す。
私はぽろぽろとこぼれ落ちる涙を、
両手で必死に受け止めた。
しかしどんなに受け止めても、次から次へとこぼれてくる。
肩を小刻みに震わせて泣きじゃくる私の耳に、
夫の優しくて穏やかな声が響いた。
「大丈夫、きっとまた授かるから......焦らずいこう」
夫はそう言うと、左手で私の右手をギュッと握ってくれた。
私はただただ嗚咽を漏らして泣き続けた。
泣けて泣けて仕方がなかった。
ずっと心の奥にしまい込んでいた、辛かった記憶。
こらえていた思いは、今濁流となり一気に流れ始めた。
きっと泣いたら次に進める。
この苦しみは、きっと涙で浄化出来るはず......
そう思いながら、私はとことん泣く事を自分に許した。
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