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注文した物が来るまでの間に、私は聞いた。
「あの...登山ですか?」
「ああ、すみません、こんな格好で。昨日から山に行っていて、今朝下山しました」
「ええと、どちらの山ですか?」
「雲取山です」
「それって何県ですか?」
「埼玉県です。秩父の方ですよ」
「へぇ...えっと、昨日からだと、もしかして山で一泊とか?」
「はい。天気が良かったので星が綺麗でしたよ」
夫はなんでもないという風に言った。
それを聞いて、私は驚いていた。
お見合いの前日に山に登り、
お見合い当日に下山して、そのままお見合いに来る。
なんとも不思議な男性だ。
私はこの時、かなりびっくりした顔をしていたと思う。
「確か、生物の先生でしたよね?」
「はい。職業病といいますか、山へ植生を見に行くのが趣味で...」
「高山植物とかですか? 私は山登りはしないので、よく知らないのですが」
「そうです。標高が高い所の植物は、紫外線の影響で花の色が濃くなるんですよ。だからそういうのを見るのが楽しくて...」
「紫外線で?」
「はい。標高が高いと紫外線が強いので、植物はストレスを多く受けるんです。その影響で色の合成が活発になり、鮮やかな色彩になるんです」
「へぇ......」
私は感心したように言った。
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