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2.そしてまた当て馬になるんだ
瀬名 幸人(せな ゆきと)が僕の名前。
親しい人からはユキと呼ばれている。
背はそんなに高くなくて顔は中性的。色素の薄い茶色の髪は少しクセがあって、おしゃれパーマをかけているみたい。そして肌も白い。
自分で言うのもなんだけど、僕は可愛いと思う。
けれど、未だに恋人と長続きをした事がない。
同性愛者でおまけに惚れっぽい僕は、少し優しくされるとすぐ勘違いしちゃう。
そして仲良くなりたくて愛想を振りまけば、相手も満更でもない様子を見せる。
だから益々勘違いして、恋人面してベタベタして、そして、本命が現れるわけである。
『この僕をふるなんて!』と、まさに当て馬らしい台詞を吐いて逃げ出したのは、これで何度目だろうか。
数えたくもない程の失恋を繰り返して、流石に僕も気づく。
あ、僕って当て馬要員なのか、と。
恋愛漫画が好きで、少女漫画やBL漫画を良く読んでいた。
いつか主人公みたいな恋愛を僕だって……と夢見ていたけれど、気がつけば僕のポジションはいつだって当て馬。
ねぇそれって、あんまりじゃないか?
主人公になれないのなら、いっそモブが良かった。それならここまで、何度も何度も傷つかなくて良かったのにさ。
「……ぅ」
そう、僕は毎回、懲りずに恋しては真実の愛に敗れて傷ついている。
逃げた先のベンチで膝を抱えて座り込み、嗚咽を漏らす。
分かってた、こうなる事は覚悟していた。
けれど、やっぱり辛いものは辛いんだ。
大学生にもなって良い加減学習しろよって思うけど、好きになっちゃうものは仕方ないだろ。
尚也とは大学の入学式で出会った。
飲み物を買いに食堂に行ったら入学式がある講堂が分からなくなっちゃって、困っている所を尚也が助けてくれたんだ。
道に迷って不安な僕を、優しい笑顔で講堂まで連れて行ってくれた。
見た目も好みだった尚也に、それだけでもう恋に落ちそうになる僕だったが、ここではちゃんと思い直した。
また痛い目をみるぞ、どうせ恋は叶わないんだからって。
でも、尚也とは選択科目が良く被り、おまけに講義室で僕を見つけた尚也が嬉しそうに隣に座ってきたりした。
これって運命かな、なんて、浮かれ始めて、尚也にさり気なくボディタッチするようになって、でも尚也も嫌そうでも無くて。
『お前ら付き合ってんのー?』
なんて、周りからお節介を言われるぐらい仲良くなってさ、だから僕も尚也の腕に巻き付きながら『つき合っちゃうー?』なんて言ってみた。
そしたら尚也も『あー……うん、良いけど』なんて言うから、そりゃもう浮かれて浮かれて、このザマですよ。
「あーあ……アホらし」
尚也に幼馴染の存在を知って、もしかしてってモヤモヤはあった。
けれど気づかないフリをして、ラブラブなんだって思い込みたくてもっとベタベタして。
けっきょくキスの一つもしてもらえないまま、尚也は真実の愛に奪われた。
いや、奪われたんじゃない。彼は初めから僕の物なんかじゃなかったんだ。
僕は二人が真実の愛で結ばれる為のスパイスでしかないんだから。
けどね……
「……好きだったのに……」
僕はホントに好きだったよ。優しい笑顔も、時々頭を撫でてくれる手も、僕を呼ぶ声も。
彼の家に行った時、僕が作った親子丼を美味しいと食べてくれた。ふわふわな髪が気持ちいいって言ってくれた。抱きついたら抱きしめ返してくれた。
でも、それもニセモノだったんだって。
「ふっ……ううぅ……っ」
立てた両膝に顔を埋め、出したくもないのに勝手に出てしまう涙をスキニーパンツに吸わせた。
オーバーサイズのパーカーは泣き顔を隠してくれる。だから今は思いっきり泣いてしまおうか、なんて思っていたら、不意に声がかかった。
「どしたん? 泣いてるの?」
しんみりした僕とは対照的な明るい声。
軽くてどこかチャラそうな雰囲気の声に視線だけ向けると、やっぱりチャラそうな金髪の男が飴を舐めながらこちらを見ていた。
耳にピアスを何個も開けたのんきそうな顔に、なんだか無性に腹が立って、どっか行けよの思いを込めて無視を決め込む。
なのにその男ときたら、まったく空気を読む気がないようで、僕の隣に座ってきた。
あーもー面倒くさ。
この後の行動も、なんとなく分かる。
きっとこの男は僕の頭を撫でて「大丈夫ー?」なんて言って──
「キミ大丈夫ー?」
──僕が泣き止むまでそばに居るんだ。
そしたらほら、まーた性懲りもなく、恋に落ちちゃうんだよ。
そしてまた真実の愛の為に、当て馬になるんだ。
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