5.当て馬、ビビる

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5.当て馬、ビビる

   チュッ、チュッ、と何度も降ってくる柔らかな熱。  え? 何? え? って目を開ければ、なんか視点が合わないほど顔が至近距離にあって、僕の唇に落とされる柔らかな熱はシュウの唇でちょっと待って何してんの。 「ちょ……っ、ちょまっ……ストップストップストップ!」 「んえ……? 何で?」 「や、え? なん、え? は? え? 何で?」 「何でって、何で?」  思わず何度も近づいてくる唇を両手で覆ってしまい、なぜかされていたキスを強制的に止める。  そうだ、キスされた。でも何でキスされた?  ポカンとする僕を、シュウは首を傾げて見ている。 「ユキちゃん、キス……嫌だった?」 「や、あの、嫌じゃないよ? 嫌じゃ、あの……ちょっと、ちょっと待ってね!」  キスをしたんだって今更実感して顔に熱が集まるのが分かる。たぶん今、顔真っ赤だ。  恥ずかしくて嬉しくてでも恥ずかしくてうわーってなった感情を隠すように口に拳を当てて俯いてしまう。  うわっ、うわっ、僕キスしたんだ。唇ってこんな柔らかくて熱いんだ。  初めてじゃないけど、一回だけした事あるけどさ。あの時は一瞬だったしすぐ突き飛ばされちゃったし、唇の柔らかさなんて覚えてない。  けど今度は何度も、しかもシュウから何度もしてくれた。  うわっ、うわーどうしよう。嬉しいどうしよ。  何でキスされたんだって疑問も忘れて、どんどん浮かれ出すチョロい僕。  けれどそんな浮かれた心を沈める声が、頭上からかかったんだ。 「……ごめんユキちゃん」 「……っ」  熱かった顔が、一気に冷える。  同時に心も冷え切った。  あぁ、ほら、やっぱりね。  一度浮かれさせておいて落とすなんて、ずいぶん残酷じゃないか。  悲しいより怒りが湧いて、喚き散らしたくなって上を向いたら── 「ユキちゃん……」 「ぅん……っ!?」  ──また唇を奪われた。しかも今度はなんだか強い。チュッチュッて優しいやつじゃなくて、むしゃぶりつくような激しいやつ。  びっくりしてキュッと口に力を入れちゃったら、固く結んだ唇をベロリと舐められた。 「ごめんね、可愛すぎてさ……もうおあずけ、ムリかも……」 「へ? ん! んんん……っ!」  言葉を理解する前に、ドサリとラグの敷かれてある床に押し倒されていた。  同時にまた唇を奪われていて、肉厚な舌がねっとりと口腔内で動く。  何だこれって混乱する間にもシュウの舌が僕の舌と絡めたり上顎を撫でたりするから、だんだんと気持ちよくなってきちゃう。  シュウの右手は僕の左手首を掴み、左手は僕の後頭部を固定する。  何度も角度を変えて唇を覆い、ときどき下唇を甘噛しながら僕の思考をとろけさせていく。  自由だった右手はすがるようにシュウの背中を掴んでて、気持ちよさにもっともっとと自分から唇を押し付けていた。 「えー……やば……かわい……」  混ざりあった唾液が頬をつたう頃に、ようやく離される。  とろんとした思考にシュウの呟きは届かなかったが、いつも楽しそうに笑っている目が笑ってなくてゾクゾクした。  僕を見下ろしながら口の端を舐める舌や、逃さないって言ってるみたいに僕の手首を強く握るシュウの手が怖くて、でも、ドキドキする。  しかし服の中に手が忍び込んできて、ヒョワッ!? って変な声を上げてしまった。  ようやく追いついてなかった思考が現実を理解し始めたのだ。 「はえ!? ちょ、ちょと! ま、まっ、待ってぇ!」  今まで何度も恋人と甘い夜を過ごす妄想はしてきた。けれど一度も現実になった事はない。  だって僕は当て馬だから、そうなる前に大好きな人は居なくなってしまう。  なのに何で、シュウはまだここに居て、荒い息で僕の体をまさぐろうとしてるんだ。 「ユキちゃん、ダメ? お願い……」  僕にストップをかけられたシュウは、服の中に手を入れたまま止まってくれた。  けれどフーフー言いながら熱すぎる視線を送るシュウが、お願いと懇願するから、僕は混乱してしまう。  そして僕は混乱したまま、混乱した言葉を吐いていた。 「や、だって……え、シュウくん、僕で勃つ……?」 「こんだけ興奮させといてそれ言う?」  ちょっと笑ったシュウが、僕の右手を取って自分の股間に擦り付ける。  それはしっかり固くって、狭いパンツの中で辛そうに主張していた。  僕は驚き手を引こうとするが、シュウがそれを許さない。 「もっ、わ、分かった! 分かったからっ!」 「あー……ユキちゃんの柔らかい手きもちー」  分かったから止めろって言ってるのに、今度は聞いてくれなくて。  それどころかもっと強く押し付けて擦って、僕の手でオナニーするみたいに腰を動かす。  
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