7.当て馬のままで良いみたい

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7.当て馬のままで良いみたい

  「ひぐっ──あ、ぁああ……っ!!」 「はぁっ、はっ、ユキちゃん……ユキちゃん……っ」  挿れられたと同時に悲鳴に似た喘ぎ声をあげ、吹き出した潮が腹をつたいシーツを濡らした。  それなのにシュウは僕の両方の膝裏を持って大きく開き、パンッと何度も肌をぶつけた。 「やぅ! ひっ、ひぁっ! やめ、やっ、ぁあっ」  ギシギシとベッドの軋む音と共に容赦なく揺さぶられる体は壊れてしまいそうで、必死にシーツにしがみつく。  快楽の絶頂から降りられず、気がおかしくなりそうで言葉にならない言葉で必死にもう無理だと訴える。  それでも腰を打ち付けるスピードは一切落ちず、むしろ激しくなる一方だ。 「ぁうっ、んっ、ンン──ッ!!」 「ふーっ、ふー……っ」  息を荒くしながらシュウは僕を見下ろして笑みを浮かべた。 「全部あげる、全部……俺のぜーんぶ、ユキちゃんのだからね」 「──ぁ、ッ!」  パン──ッ! と、いっそう強く打ち付けられ、奥にシュウの熱が広がった。  同時に僕も少量の潮を吹いて、喘ぎすぎて呼吸が出来なかった口をはくはくさせながら酸素を求める。  手はもうシーツを掴む力もなく、パタリとベッドに放おった。  そんな僕の手をシュウが包み込み、額に汗で張り付いた髪を優しく払って口づける。 「だからユキちゃんも、ぜーんぶ、俺のユキちゃんになってね……」  中も外もシュウのぬくもりに包まれて、僕の記憶はそこで途切れた。 「大好きだよユキちゃん……」  * * *  まぶたの裏に明るい光を感じて目を覚ました。  ぼんやり開いた視界には、僕を見つめるシュウの優しい眼差しがあった。 「ユキちゃんおーはよ!」  明るい声で言われたが、僕はまだぼんやりしてて「どこだっけここ」って思いが抜けない。  そんな僕をシュウが抱き込み「寝ぼけてるユキちゃんもかわいー」と言った。  良く見ればお互い裸で、素肌同士の温もりにだんだんと昨日の記憶がよみがえる。 「お……おはよっ」  色々と恥ずかしい記憶が鮮明になってきて、ついシュウの胸に潜り込み顔を隠してしまう。  そんな僕の頭上から「えー、もー、かわいすぎじゃん……」て聞こえたが、たぶん耳まで真っ赤なのでまだ顔は出せない。  体はあちこちにダルいけど、綺麗にされてるからシュウが綺麗にしてくれたんだろう。  そんなこんなでモジモジしていたが、シュウがじゃれるみたいにもみくちゃにしてきたので、シーツにくるまったまま戯れてた。  けれど僕のお腹がクゥと鳴ったから、シュウが面白そうに笑って朝ごはんを食べる事になった。  ベッドの上でバンザイさせられて、そのままシュウのシャツを着せられる。  そんな彼シャツの僕を、ジャージの下だけ履いたシュウが抱えあげてそのままソファーに運んでくれた。 「今コーヒー入れてくるからね」 「……牛乳いっぱい」 「もちろん!」  寝癖がついた僕の髪をシュウは優しく撫でて簡単に整え、キッチンに入って僕のお気に入りのマグカップにコーヒーを注ぐ。  その様子を、まるで他人事のように眺めている自分がいた。  これ知ってる。漫画でたくさん見てきた憧れのシチュエーションだから。  ただしこのポジションは、ヒーローの本命の子が、真実の愛に気づいたヒーローからもらうポジションだ。  なのに、なんで当て馬の僕がここに居るんだろう。 「……ユキちゃん、そんなポヤポヤなかわいい顔で見つめられたらまた勃っちゃう」 「ほえっ!?」  不思議な気持ちでずっとシュウを見てたら、マグカップを持って戻ってきたシュウが困った笑顔でそんな事を言い出す。  何言ってんだよって思ったが、僕にマグカップを渡したシュウは隣じゃなくて僕の背後にボスンッと無理やり座り込み、そのまま後から抱きしめた。  だから腰にあたるシュウのちょっと硬くなりかけたモノも分かっちゃって、緊張と恥ずかしさで俯いてしまう。 「だーいじょーぶ。今日はもうしないから」 「き、今日は?」 「うん、今日は」  明日は分かんないけどね……といたずらっぽく耳元で囁かれ、僕は益々アワアワする。  たぶんちょっとからかってるんだろうけど、声の熱っぽさから本気が伺えたから。  その後はいつの間にか仕込んでいたフレンチトーストを焼いてくれて、二人であーんしながら食べた。  幸せで、あんまりに幸せすぎて、どうせいつかシュウも真実の愛を見つけるんだって不安は、幸せにかき消されてた。  その後もなぜだか幸せは続いた。  毎日しつこいまで愛撫されてセックスするのはちょっと困りものではあるんだけどね。  心配していた幼馴染とか、地味だけど笑顔のかわいいあの子とか、素直になれないライバルとか、影からひそかに想いを募らせる健気っ子とか、地味かと思ったら前髪上げると超絶無自覚美人まで現れたんだけど。  シュウはずーっと僕に笑ってくれたし、なぜだか僕だけを見てくれた。  それでもやっぱり油断出来なくて、ついついすぐヤキモチやいて牽制しちゃうんだけどさ、そんな僕をシュウが「かわいい」って言うから。  だったらもうこのままで、当て馬気質の僕で良いやって、思うようになりましたとさ。  めでたしめでたし。  
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