私たち、夫婦になります

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 ドレスのせいですぐに振り向けない私が新郎の陸斗の方を見ると、陸斗の目はまんまると見開かれた。その表情で、陸斗が知っている人なのだと連れ添いの勘で分かった私はよいしょっと陸斗の方に身体を向けながら振りむいた。  視界に入ったのは、真っ白なシースドレスを纏った女性が私が小股でゆっくり歩いたレッドカーペットを大股でずんずんとこちらに向かって歩いてきている姿だった。鎖骨までありそうなストレートに流れた黒髪が綺麗で、唇は彼女の決意した表情にぴったりのような燃える赤色をしていた。瞳の方が燃えているように見えたのは恐らく気のせいではないのだろう。 「この結婚式はただちに中止しなさい」  私たちに触れられる一歩手前で仁王立ちし腰に両こぶしを当てながら彼女は胸を張って言い放った。  その自信はどっから湧くのだろう、そもそも自分が部外者だと理解できない頭が可哀想な人なのだろうか、と不思議に思うと共に哀れみのため息をヴェールの中でそっと吐き出した私は、彼女の背後から黒いスーツを纏った警備の人たちが5,6人やってきたのが見えたので気を取り直して神父の方へ身体を向けた。 「どうぞ続けてください」 「はえ?」  その声は前方ではなく後方からだった。もう一度ゆったり振り向けば、既に自分の席へ戻っているはずの父親がぽかんと口を開けて惚けて突っ立っていた。 「お父さん、大丈夫だから」  納得いってない、というよりは大層心配している様子だったけど、私は父が座る筈のテーブルの方向を指さした。本当はこの手はずっと両手でブーケを上品に持ったままでいたかったのだが、仕方がない。片手がブーケの重みでぷるぷるしているけど、夫婦になる儀式のためなのだから多少は我慢しよう。  横で新郎の陸斗があわあわしていたが手をブーケに戻すついでに肘で思いっきりこづいて落ち着かせた。ちょっと力が入りすぎたみたいで「うっ」という声が聞こえたが気にしない。 「ちょっと! なんで続けるのよ! 中止しなさいって言ってるdsj!?」  後ろで女性がワーワー言っている  最後の方は言葉として聞き取れないほど喚いている。  夫婦になったら落ち着くかと思ったが、夫婦になってからもこんな感じかもなぁ、とぼんやり思っていると私の腕を掴む手があった。どうやら彼女は力が非常に強い様で、警備を振り払って私の腕に辿り着いたようだ。なんという執念。ていうか何この人凄く力強い。  強引に振り向かせられて改めて間近で顔を見ることになった。  ちょっとかっこいいな。  近くで見ると綺麗なのに色々勿体ないなぁ。  私がそんなことを思っていると彼女は目をカッとかっぴらいて言い放った。 「私は陸斗と一夜を共にしたのよ!」  ああほらやっぱり、と思いながら私はため息を吐く。  嘘だとわかっているからだ。  陸斗の顔と財力に魅了された可哀想な子羊なのだと理解した私は尋ねた。 「彼の身体の一番印象的な特徴いってごらん」 「え!?」
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