私たち、夫婦になります

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 名前も知らない乱入者の頬がほんのり朱色で染められた。  私がじっと言葉を待っていると、彼女は視線を斜め下に下げて、ちょっと上目遣い気味に陸斗を見ながら「そりゃ、筋肉質で逞しい背中とか、シャツをめくり上げた時に見える少し割れた腹筋とか……」ともじもじと言い始めた。  そんな答えもすでに人生の中で聞き飽きた私は、ほらやっぱり、と確信を得た。このままだらだらと続けても無駄なのと、さっさと話しを終わらせてほしいので(ていうかそろそろ立っているのがしんどくなってきた)からブーケを新郎の股間にバンっと叩きつけた。綺麗に可愛くアレンジしてくれたお花屋さんごめんなさい。 「普通、ここが気になるはずだけど」 「そりゃ、大きかったけど」 「あ、嘘だね。ママに怒られてちぢこまったパパよりちっちゃかったもん」  疲れてイライラしている私はうっかり子どもの頃の記憶にあった小さいものと比べてしまった。  ごめんパパ、緊急事態なんだから許して。視界の端で皆の視線がお父さんが居るっぽい所に集中しちゃったのは本当に申し訳ない。 「な……っ、は……!?」 「吃驚している所悪いけど、日本人ってちくわサイズでも興奮したらバナナサイズには大きくなるのが標準なのね? でもこれから私と夫婦になる人はなめこがしめじサイズになる程度だから大きいなんて言葉は一切出ない筈なの。というわけでうそつきはお帰り下さいませ」  私の言葉を皮切りに、どういう表情をすべきかと悩んだ挙句にとりあえず笑いだけは堪えようと頑張ってるっぽい真顔の警備員たちが呆然とした彼女を引きずっていった。ヒールのかかとが高かったから、赤い絨毯にかかとの後が残っているのは中々シュールだった。  まぁこれも一つの一興として、私は気を取り直して前を向く。  誓いを立てている間、陸斗の「はい……誓います……グスっ」という涙の音は聞こえないふりをしてあげた。結局は誰にでも優しく紳士的にしちゃう彼の自業自得なんだし。親戚の哀れみの視線も、いい思い出になると思いながらヴェールを陸斗にめくってもらって誓いのキスをした。  陸斗がどこか遠い方を見つめながらグズグズと鼻をすすっていたけど、運命の2人なんだからどんなことも乗り越えられるよ。大丈夫大丈夫。涙を流したこともきっと忘れるよ。  あそこの小ささなんか気にせず、運命の夫婦として幸せになろうね。  fin
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