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「未来君おはようー」
「おはようございまぁす」
今日の予約を確認していつもの様にロッカーから籠をとりだすのだが····
「····ねぇ、俺の籠。ないんだけど?」
「え!?」
仕事道具として使っている籠がなかった。
直ぐにボーイが調べれば新人の子が間違えて持って行ってしまったという事だった。
「は?」
何で間違えて持っていくのかが理解不能。
キャストそれぞれの籠の中身は違う。
客が吸うタバコの銘柄や飲み物、名刺や髪の毛のセットの為に使う道具等、それぞれ自分達でカスタマイズをしている。
それなのに何故間違えて持っていくのか本当に意味がわからない。
自分の仕事道具を勝手に使われて一気にテンションが下がる至は裏で不貞腐れながら煙草を吸い始める。
仕事道具がなければ仕事にならない。
どうしてくれるんだ。
「つか、何でその新人が俺のロッカーの鍵使ってんのさ?」
普段ロッカーの鍵は受け付けに預けている為、自分の使っているロッカーを開けられる事はないはずなのだが·····
「ゴメン。仕事出来ない方のボーイが間違えて未来君のロッカーの鍵を渡したっぽい」
「いや、ありえんだろ普通。」
客用の飲み物も煙草も避妊具もローションも全部至の自腹で買ったもの。
しかもローションは弱酸性ものでネットでわざわざ取り寄せている。
仕事の時間もずらされるし、予約してくれている客もいるのに最悪と愚痴をこぼす。
「未来?時間過ぎてんのにどうしたんだ?」
社長が出勤してきて何も準備をせずに煙草を吸って仏頂面になっている至に話しかける。
社長の声に顔を上げて
「社長ー!聞いてよ!!」
仕事道具を取られた事を社長に話すと
「は?」
社長がキレた。
直ぐにロッカーの鍵を渡したボーイを呼び出して社長は裏口に行く。
裏口に行っても社長の怒鳴り声がよく聞こえる。
社長キレたら怖いんだよなぁ····と、至は思った。
暫くすれば社長だけが先に出てきて至に
「ごめんな。新人の子120分コース入ってて未来の籠取れねぇから代わりの籠を使ってくれ。必要なもんは今から買いに行かせる」
社長はそう言ってくれるが、できるだけローションは弱酸性じゃないと肌が荒れると至が言えば····
「おい。二丁目の店に連絡して弱酸性のローションあるか聞け。ないなら車で隣町のショップに売ってるから買ってこい。後····」
タバコとドリンクを買うように先程怒られたボーイに命令して買い出しに向かわせた。
「今日はVIP部屋誰も使ってないからそこを使って」
普段使えないVIP部屋を使わせて貰えることになり、接客中、至の機嫌はかなり良かったと言う。
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「湊大来たんだって?」
わざわざ連絡が来たらしい。
「β内、VIP部屋でテンションめっちゃ上がってた」
αの多い至の客でβである湊大の呼び方に吹き出した。
「俺でも落とせそう」だ、なんて言ってたが、どう考えても落とせないだろうなと、心の中で幸人はせせら笑う。
「まぁ、お清めは大事だよな」
「は?····あ、ちょ······」
とりあえず本日も上塗りをした。
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