同級生

9/11
81人が本棚に入れています
本棚に追加
/67ページ
「帰るのめんどくさ····」  店の営業終了と共に愚痴を零す至に「ホテルでも取れば?」と、同僚は他人事の様に提案してくる。 「私はこれからアフターだから」  担当のホストと帰ったらお楽しみですか。  性が出ますね。  別にホテルに泊まってもいいが····  どう転んでも先は闇しか見えない。  至は素直に帰る事に決めた。  マンションに到着し、エレベーターに乗り自分の階についてまっすぐ部屋に向かおうかと思ったが····· 「·····はァ」  どうせ起きてんだろうと、幸人の家の扉を開けた。 「············」  部屋のテーブルにはビール缶が幾つも並べられ、ソファーの上で幸人は眠っていた。  不貞腐れて帰りを待っていたが、眠気には勝てなかったのだろう。 「αの癖に馬鹿だな」と、思いながら幸人の寝室から毛布を取り出して眠る幸人に掛ける。  自分は一体何やってんだろう?と、心のどこかで自分自身に呆れながらテーブルの上のビール缶を袋に詰めた後に洗面所へ向かい、顔と口をさっぱりさせた後、隣の自分の部屋に帰るのもダルいと思った至は勝手に寝室に入り、幸人のベッドで寝た。  -------  自分がいつ寝てしまっていつ至が帰ってきたのかなんて分からない。  ビール飲んで知らないうちに寝落ちして目が覚めれば自分の身体に毛布が掛けられてビールが片付けられていた。  そして、寝室には至が何も掛けずにスヤスヤと眠っている。 「·············」  至に毛布を掛け、抱き枕にして幸人はもう一度夢の中に入る事とした。  夢の中の至はあの頃の無邪気な笑みを向けてくれていた。  しかし、直ぐに何処かのホテルで今の至が湊大の傍に居てキスをして服を脱がし身体を重ねている場面に切り替わる。  幸人はただ、その光景を動けずに見る事しか出来ない。  次の場面では街中で今より少し幼い至が複数人の男と交合い泣きながら喘いでいる。  ギャラリーは幸人だけではなく通行人がスマホを向けて動画を撮っていた。  そして次は 「止めてっ!や····ぃヤダアァアァ!!」  高校生の至が至の実家で叔父に蹂躙される場面へと切り替わる。  悲痛な声と泣きじゃくる姿。  そこで幸人は目が覚めた。 「············」  嫌な夢。  寝起きの気分は最悪だった。 「···ぁ~·····」  起き上がり、頭を抱えて溜息を漏らす幸人はチラリと隣に眠っている至を見る。 「·········居ねぇ」  正確には場所である。  時刻は8時25分だった。
/67ページ

最初のコメントを投稿しよう!