トンチキ営業

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「ええと、一応製造業ですけど」  嘘である。 「なるほど、勤続年数はどれくらいですか」 「大体三年くらいですかね」  嘘である。 「年収はどれくらいですかね」 「約……三百万くらいですかね」  嘘である。 「ちなみに、ご主人以外に昼間に対応できる方っていらっしゃいましたか?」 「いません」  本当である。 「恋人や、奥様はいらっしゃいますか」 「いません」  ……本当である。  とまあここまで、嘘で固めた面接試験のような問答を繰り返す。  基本的に私はこういった信用できない相手に対して、なるべく個人情報等を偽って話す。  何かと色々ある世の中だ、下手気にペラペラと話をして万が一があってからでは遅い。こういう人種は大体が一期一会だ、二度と会わないなら自分の情報を渡す必要など無い。というのが私の考えだった。 「なるほど、なるほど」  質問に答えながら、私は寒さに一人震えていた。  Aはダウンジャケットを着ているからいいが、私は完全に部屋着だ。玄関の構造上、冷たい冷気が部屋の中に向かって流れ込むため当然私に直撃する。  シンプルだがきつい苦に晒されながら、私は人生における選択の大切さを嚙みしめていた。 「ええ……それから、預金の方はいくらぐらいでしょうか?」  預金? こいつは今預金と言ったか? なぜそんな事を答えなければならないのか、私の雀の涙の二分の一くらいの預金額が一体何の参考になるというのか。  なぜ初対面の人間に芸能人レベルの情報を開示しなければならないのか、そもそも貯蓄額を聞くなどよほど親しい仲だったとしても躊躇う質問だ。  それともこいつはこの短い時間の中で、人知れず私と友情を育んでいたとでもいうのだろうか? 「ほとんどありませんね、五万くらいです」  疑問は次々浮かぶが、内心苛立っていた私はやや語気を強めて口を開く。  実際はほぼゼロだったが、無意識に見栄を張った。
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