トンチキ営業

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「だとしてもやっぱり情報の悪用とかが怖い世の中ですから、やっぱり警戒しますよね」  Aはおもむろに手袋を外し、チャイムを鳴らす。 「はっきりと申しまして、日本の警察は優秀ですからもし私があなたの個人情報を悪用した場合すぐに捕まってしまいますよね? 今マスクとかもしてませんしこういう風に指紋も残してます。であればご主人の心配はいらない心配かと思いますが」 「はあ……」  確かに日本の警察は優秀だが、それでも逃げ切る人間はいるだろうし取りこぼす証拠だって無いとは言い切れない。  というか警察を妄信し、何かあってもすぐに何とかしてくれるから大丈夫と判断しペラペラと個人情報を垂れ流すのはどう考えたっておかしな事だ。  警察とはあくまで市民にとって最後の手段、病気になった時の医者のようなものだ。病気と同じで犯罪だって予防できるに越した事は無いずだが、なぜかAは私のそういった考えをいらない心配として一蹴した。  何度でも言うが私はAと友人ではない、この日初めて会ったのだ。  誰かに紹介された訳でもないため、この男が安全かどうか保障してくれる人間もいない。  だがどうやら彼の中では、自分は警戒する必要の無い至極真っ当な人間であるという考えがあるらしい。  というかそもそもお前は、最初は手袋していただろうが。 「恐らくですが、過去のそういった方々と私を一緒くたにしているのではありませんか? 警戒するのは分かりますが、最初の対応やここまでの応対を見ると少し失礼な方なのかと思ってしまいます」  なぜか説教が始まってしまった。  自分の胡散臭さを棚に上げ、こちらを失礼な人間だと言い出したAに対する印象は地の底へ向かって急降下、フラッシュクラッシュもいいとこだ。  確かに警戒心から、人によっては失礼だと思われる対応もあっただろうが私の過去にあった出来事や考えは伝えてある。  それを踏まえて失礼な人間だと言うあんたは、失礼じゃないのかと逆に聞きたい。 「お気を悪くしたのならすいません」 「まあ私は良いですけどね、もし本当に危ない会社の人間だったらどうするんですか? 最初から犯罪者だ、みたいな対応されたら誰だっていやな気持ちになりますしそれこそトラブルに繋がりますよ? そっちの方が怖くないですか?」  驚きだがこれは本当にこう言っていた。  客が神様だ、みたいな考えは私の中にはもちろんない、だがあくまで営業だというのなら何かを買ってもらおうというスタンスで来るのではないだろうか?  にも関わらずこんな脅しじみたセリフを吐き、更には話の中身もまだ話さない。脱線超特急みたいな男になぜ私は説教を喰らっているのか。もしやこいつはこれが目的でここに来たのか? そう思ってしまうほどに奇妙な状況だった。  もう一つ言うなら、私はこの『私は良いですけど~』といった言葉を使って他人を批判する人間が反吐が出るほど嫌いだ。  間違いなくムカついているのは自分のくせに、まるであなたのためを思って言ってるんですよみたいな態度が非常に腹立たしい。是非とも富士山の火口に飛び込んで、地球と一体になって頂きたい。
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