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結論から言うと、私はこの日これといって契約を結ぶことは無かった。
紆余曲折を経て、話を進めていく中で私が言った勤続年数等の情報が嘘だとバレてしまい、その結果どうも私は対象外だったらしい。
だがそこに辿り着くまで、約一時間半の時間を費やした。Aは話の途中で他の方はここまで時間かからないんですけどね~と、壊れたラジオのように繰り返していた。
そして幕切れとはあっけないもので、Aが会社に連絡し私の経歴が違っていたと知るやいなや、電話口の向こうの上司らしき人物が『そこはさっさと切って次に行け』と言ったために終わった。
Aはお暇しますと言う言葉と『嘘は良くないですよ』という金言を残し、寒空の下へと消えた。
一応その後の顛末として、男が言ったJ不動産という会社を検索してみたがそれらしい会社は出なかった。
やはり詐欺か、何かしら後ろめたい事があったと考えるのが妥当であると私は判断した。
その後、友人にこの事を話すと『そもそも良く一時間半も話してたな』と至極真っ当な返事が返ってきた。
一応今回の学びとしては、見知らぬ人間には心とドアを開かないというものだろうか。
私は時折、Aが言った嘘は良くないですよという言葉を思い出し考える。
嘘を言った私と大切な事を言わなかったA、果たしてどちらが真に悪であるのかを。
それが私の失われた一時間半に対する、私なりの弔いと信じて。
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