トンチキ営業

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トンチキ営業

 そいつは突然やってきた。  ある金曜の日没後の事である。  その日、私は仕事が休みだったため友人と少し遠出をし遊んでいた。  友人と別れ、家に着いたのは十八時を過ぎた頃で季節の事もありすでに陽は落ちきり、辺りは夜の風体へと変化している。  上着を片付け、さて少しゆっくりするかと考えているとピンポーンという電子音が聞こえた。  この日は特にこれといって来客の予定も無く、郵便物が届くといった事も無い。  加えて私の住んでいたアパートは壁がせんべいのように薄く、隣の家のチャイムも聞こえてしまうため、きっと隣の家に誰かが来たのだろうと呑気に構えていた。  だが少し間を置いて、もう一度チャイムが鳴る。  隣人がチャイムに即座に反応するような人間かどうかは分からないが、郵便にせよ来客にせよ自分に用があればすぐに出るはずだ。  私が帰ってきた時に、隣室の電気が点いていたため急な睡魔に襲われでもしない限りは反応するはずだ。  にもかかわらずチャイムは鳴る。  おや、これはおかしいなと思い私は重い腰を上げゆっくりと玄関へと向かった。  なるべく音を立てないようにドアに近づくと、そっとドアスコープを覗く。  そこにはダウンジャケットを着た、見知らぬ男が立っていた。  その瞬間、私の心の中でサイレンが鳴り響く。  十八時過ぎという家庭によって夕食時の忙しい時間、そこにアポなしで突撃してくる人間がまともなはずが無い。  というよりも、そもそも私は突然家に来る人間を信用していない。  過去にも訳の分からない商品を売りつけられそうになったり、神を信じる敬虔で厳かな者が来たりとロクな目にあっていない。  間違いない、こいつは敵だという考えが私の中で可決され、やや偏見とも取れる考えに、この時の私は完全に支配されていた。  とはいえ夜であるため明かりで私がいる事はバレているだろうし、この男も帰る気配が無い。  こうして考えている間にも、二度ほどチャイムが鳴らされた。  仕方ないとドアを開ける事にしたものの、やはり生来の臆病さと今までの経験から、ドアチェーンをかけたままドアを開けた。
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