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【クリスマスイブの喜劇】
キーン、コーン、カーン、コーン。
チャイムの音が鳴り終わる頃には、僕は荷物をまとめて教室を飛び出していた。そしてそのまま、隣のクラスの友人Mを連れて学校を飛び出す。
時刻は12時を回っていた。
時は2020年12月24日。なぜ僕らは走っているのか。しかもクリスマスイブに。ちなみに、この友人Mというのは、男だ。これが女子だったら、ロマンチックなイブだっただろう。
僕らが疾走する原因は約2ヶ月前に遡る。
高校二年生のとき、ある授業で、複数人でグループを組んで約一年間かけて研究を行うという大掛かりなものがあった。当時の僕は法学系を志望していたこともあり、法律に関する研究グループだった。そしてその中で中学からの友人がいたため、自然と彼と組むことになった。そして研究テーマは決まっていき、最終的に「児童虐待に対する提言」ということになった。ただ、これを選んだのは当時の新聞でよくこの手のニュースを見かけたというだけだったので、調査は難航を極めた。そのため、僕はあることを口にする。
「なぁ。嶺南の高浜町に、子育て世代包括支援センターってのがあるらしいんやけど、インタビュー行ってみん?」
この時の僕は何故か研究に熱を注いでいた。
「うんまあいいよ。」
彼も少し興味があったようで、話はすんなりと決まった。
そしてアポ取りや当日の流れを考えていく中で、ある事実が発覚したのだ。まあ、もとより分かっていたことではあったのだが。そう。福井は電車が少なく、授業を4限まで受けた場合、かなりギリだということだ。そして、最初はバスに乗って駅まで行くルートで考えていたが、このバスがなかなか時間通りにはいかないのである。そのため、僕らは走って駅まで行くことにした。
というのがことのあらましである。
そして何とか間に合い、電車に乗り込む。嶺南は、同じ福井県といえども、隣県の金沢に行くよりも時間がかかる。片道2時間だ。
実は、後から分かったことだが、嶺北にも同様の施設はあったらしい。まあ、今知っても後の祭りだ。当時の僕はよく調べる癖がついていなかったのだ。
電車に乗り、向かう途中、僕らは質問リストを再度見直した。僕らの中で緊張が高まっていくのを感じる。
ふと、とても街には不釣り合いだと思った。真っ黒の学ランで、緊張で心が重い僕らと、白い雪が街を包み、心が浮き足立っている数多のカップルたち。そういえば今日はクリスマスイブだった。どうやら今年のプレゼントは、この高浜町までの往復切符らしい。何とも薄っぺらい。
そんなことを考えていると、高浜町に着いた。約束の時間まで、あと10分ほどだった。急いで向かうが、初めての土地だということもありちんぷんかんぷんだ。そのため、スマホを取り出し、グーグルマップを開く。だが、僕らの位置を示す青い丸は、カップルの熱にうなされたのか、本来は正面を指すべきところ、90度右を指していた。そのため、僕らは駅を出たところの交差点をぐるっと一周してしまった。何とも間抜けである。これでは、グーグルマップではなく、「ぐーるぐるマップ」だ。というくだらない親父ギャグを心の中で唱える。どうやらもう既にこの頃には毒されていたらしい。
そしてなんとか時間には間に合い、インタビューも流れ通りスムーズに行えた。インタビューに答えてくれた方も、こちらを絶賛してくれた。準備してきた甲斐があると思い、心底嬉しくなった。ただその後、何故か記念撮影をした。何やってんだ、俺。そこには、クリスマスイブだということを再認識して苦笑いする僕が映っていた。
これにて、クリスマスイブの”悲”劇は閉幕である。
その施設を出た後、僕らはせっかくだからご飯でも食べようとしたが、電車の時間は20分後に迫っていたので、諦めてコンビニ飯にする。本当に、何やってんだ、俺。もはや少し笑いすら込み上げてくる。海に近いこともあり、潮風が吹いてくる。かなり寒く、心の芯にまで冷たさが届いた。
帰りの電車にも無事に間に合った。この後は敦賀駅で乗り換えて帰るだけである。心身ともに疲弊してつらい、そんな1日であった。
敦賀駅に着き、乗り換える。この時、一度改札から出る必要があった。そして改札へ向かう途中、よく見たリュックを背負っている男を見かけた。ん?まさかな。そう思いつつ小走りで近づくと、そのまさかだった。同じクラスの友人Kだった。そして隣には彼女がいる。
「え、K⁈」
「お!陽樹!こんなとこで何してん?」
「今、研究の授業で高浜までインタビュー行ってきてその帰り。そっちは?デート?」
「うん。イルミネーション見にね。」
もう、笑うしかなかった。
「楽しんできてな。」
乾いた笑いで彼を見送る。
まさか、こんなところで友人と出会うとは。おそらく近場では友人に見つかるから、わざわざここまできたのだろう。残念だったな。仕方ない。リア充への悲しみに暮れる僕に見つかったのが運の尽きだ。明日学校でイジるか。笑
そして乗り換えの電車に乗り、正真正銘の何もない帰路に着く。気づけば僕らは二人とも眠りに落ちていた。
しかし日本人特有の特殊能力により、降りる駅の前で目を覚ましてなんとか無事に帰ることができた。
その後、彼とは別れ、家に着いた頃には夜の9時半を超えていた。
「おかえり〜。てかお疲れ〜。冷蔵庫にケーキあるからね。」
「お!マジ?ありがとう!あ、ただいま。」
そして冷蔵庫から僕の気持ちを体現したケーキが出てきた。
これにて、クリスマスイブの喜劇は閉幕だ。
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