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これは、クリスマスイヴに起きた、貧しい夫婦の物語。
夫は、大事にしていた形見の懐中時計を売り、妻のために鼈甲の櫛飾りを買いました。
妻は、毎日ケアして伸ばしていた髪を切り、その髪をお金に換え、夫のために懐中時計に似合うプラチナのチェーンを買いました。
夫は妻を見て驚きました。
妻にプレゼントするために櫛飾りを買ったのに、妻の美しい髪は短くなっていたからです。
妻は夫に、懐中時計に合うチェーンをプレゼントしました。
しかし夫は、懐中時計を持っていませんでした。私にプレゼントをするために、大事な懐中時計を売ってしまったことを、この時、妻は知りました。
夫は、懐中時計が無いのにチェーンを貰い。妻は、髪が短くなったのに櫛飾りを貰った。
悲しいことに、お互いのプレゼントは無駄になってしまったのです。
しかし、この夫婦は、お互いに思いやりを交換し合ったのです。
~~~三年後~~~
妻は鏡の前で髪をセットしてました。妻の髪は、もうすっかり伸び、以前と変わらぬ綺麗なロングヘアーに戻っていました。
「あっ、俺がプレゼントした櫛飾り、使ってるんだ」
妻の姿を見た夫は言いました。
「そうよ。ここまで髪が伸びたから、やっとあなたから貰った櫛飾りが使えるわ」
妻は嬉しそうに言いました。
夫は少し不満に思い、「それ使うんだったら、俺に懐中時計を買ってよ」と言いました。
「なんで私が懐中時計を買わなくちゃいけないの?」と妻は答えました。
「それはそうだろ。お前だけ、プレゼント使えるのは不公平だろ。俺なんて、チェーンしか持ってないんだぞ。なんの役にも立たないじゃないか」
「そんなの知らないわよ。三年前、お互いにプレゼントを交換したんだから、それこそ公平じゃない。それとも、今回、あなたに懐中時計を買ってあげたら、あなたも何か私にプレゼントくれるの?」
「そんなお金は無い」
「私だって無いわよ」
「とりあえず、お前だけプレゼント使えるのはフェアではない。その櫛飾り使うなよな」
夫は怒って言いました。
妻は、『セコッ。あげたもの使うなって、ほんと器の小さな男』と言いそうになりました。喉元まで来ていた言葉を、妻はグッと飲み込みました。
この言葉を言うと、越えてはいけない一線を越えてしまうと察したからです。
「だいたいお前は、髪にいくらお金かけてるんだ。シャンプーやトリートメントも結構良いやつ使ってるよな。もったいない」
「いいじゃないそれくらい。私、働いてるんだから」
「俺だって働いてる。だから時計が欲しい」
妻は、ため息を一つ吐きました。「分かったわよ。百均で時計買ってあげるわよ」
「なんで百均なんだよ。いいやつ買って来いよ」
「何言ってるのよ。チェーンはプラチナよ。それ高かったのよ。だから時計は百均で我慢しなさい。だいたい時計なんて、高かろうが安かろうが、時間が分かれば同じじゃない」
夫は、『お前だって、髪をロングにしようがショートにしようが同じだぞ』と言いそうになりました。喉元まで来た言葉を、夫はグッと飲み込みました。
この言葉を言うと、越えてはいけない一線を越えてしまうと察したからです。
「自分だけ櫛飾り、使って」と夫は皮肉を言いました。
「あなたにはチェーンがあるじゃない」と妻は皮肉で返しました。
「いい時計を買ってよ」と夫が言いました。
「だったら私にもプレゼントを」と妻は答えた。
「無理、金が無い」
「私も無い」
この夫婦は、何とか夫婦関係を保たせながら、お互いに皮肉を交換し合ったのです。
まあ、三年もすれば、どこの夫婦も、こんなもんですよ。
めでたし、めでたし。
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