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「おくへ進んでどうするというのだ」
ごもっともなグレゴの意見に、どう返せばいいのかわからない。このさきに魔女の首があるとして、それからどうすればいいのか、こっちが聞きたいくらいだ。言葉につまっていると、意外なところから助け船がきた。
「にいさん、行きましょう。呼んでいるわ」
うめく木々をみあげながら、つぶやくようにレナがいう。視線のさきで、ちいさな駒鳥が鳴いていた。
「魔女が待ってるって。呼びにきてくれたんだわ。ほら、ついて来いって」
水先案内人のように、ちいさな鳥が、うごめく木々をわたりながら森のおくへむかう。ついて行って本当に大丈夫なのか。思わず、レナの手をつかんで呼びとめた。
「だいじょうぶ。ワナなんかじゃないわ。あの子の言葉は、あたたかい色をしているもの」
「色だって? 言葉に色を感じるのか」
「うん。この世界へ来てから、すこしずつ言葉にも温度や色があるって気付いたの。にいさんの言葉は、いつもあたたかい」
ぽふっと、あたまを俺の胸にあずけるようにする。この世界では不吉なものとされる紫のかみが風にゆれてきれいだった。背中に負った幼いころのことを思いだし、レナの温もりに胸があつくなる。俺にとっては、この子こそが世界のあたたかさそのものだ。
だきしめられずにいるうちにレナが胸もとから頭を離し、ひらいた隙間に、すっと冷たい風が吹きこんだ。さきをいく駒鳥を指さして、うれしそうにいう。
さあ、行こうよ。にいさん。
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