2人が本棚に入れています
本棚に追加
第4話 ナイフ
王子発言は大受けだった。やがて、とりまきをしずめてゲドウが嗤う。
「証拠をみせてみろよ」
「その宝石が、その証だ」
との答えをきくと、無言で俺の頭を蹴飛ばし、俺から奪ったナイフを手にした。
「ふざけやがって。死体からはぎとったんだろうが。いつものように、ずっとやってきたように。おまえは屍肉あさりの盗人だ」
屍肉あさり、盗人、スカベンジャー、いや、俺は渉猟者だ、渉猟者になるんだ。と心のうちでくりかえす。けれど、無意識のうちに声にでていたらしい。
「なにが渉猟者だ」
その声は、ふくれあがる怒りを隠そうともしていなかった。そのさきに待つのは、なぶり殺しか。屍肉あさりたちは、世界に復讐をするかのように死に群らがる。執拗ないたぶりで意識はうすれ、わずかに明るみはじめた空だけが閃光のように頭に突きささり、夜明けをつげる鳥の鳴き声。
……そろそろ始末をつけようぜ。
とりまきの連中も、あきてきたのだろう。つかれた様子でゲドウに提案するが、すぐには返事がない。すこし、間をおいて、
……いや、待て。他にもあったんじゃないのか。どこかに隠してあるのかもしれない。途中で仮小屋があったな。こいつは、間違いなく何かを隠してやがる。
確信をもった声をきいて、あの子の寝顔を思いだすとともに、死をうけいれていた心の底に、ぼうと火がともった。
はれあがり、視界の狭まった目をひらいて、ゆらりと起きあがる。まだ立つ力が残っていたことにおどろく。それはゲドウたちにしても同じだったらしい。化け物でもみるようにしていた。あれだけ痛めつけてやったのに、立てるはずもないのにと。
五指のあざが残った右腕がきしむ。
キリキリ、キリキリ、ねじきられてしまいそうだ。屍肉あさりたちのあげる罵倒の声はきこえず、みょうに静かだ。
最初のコメントを投稿しよう!