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しげみの奥にひそんでいたケモノも、俺の絶叫を中心にして、ひろく円をえがくように逃げだしていった。そうして、あたりが静けさをとりもどしたとき、俺の胸もとから、ナイフの柄が、ころりと落ちた。石ころにあたって、かつりと小さな音がする。刃の部分は胸のなかに染みこむように消え、その激痛もウソのようにきえていた。かわりに、脳みそを汚ない手でかきまわされているような不快さが襲ってくる。
がつんがつん、あたまのなかのドアをだれかが滅茶苦茶にたたいている。ひらいてはいけない扉を、だれかがこじあけようとしている。あたまを抱えてその場に倒れこんだ。俺がおぼえているのは、そこまでだ。
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