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第58話 さあ
クロ《=大魔法使い黒猫ver》ともども楢の木にされてしまう覚悟を決めたとき、不意にあたりが静まり、〈首のない夜会服の女〉が動きをとめた。
しずけさを感じたのは、笑い声が止んだからだとわかった。ずっと聞こえていたのに、あるときから認識できなくなっていた。それが消えてはじめて気付く、そういう感じだった。
目的をみうしなったように、首のないからだが離れていく。さまようように。なにか落とし物でも探すように。
『やれやれ、危ないところだったのう。やっと魔女が目覚めたらしい』
「魔女が目覚めた? 〈首のない夜会服の女〉が魔女じゃないのか」
『あれは魔女の体さ。さあ、生首との御対面と行こうじゃにゃいか』
にやりと、クロがわらう。その黒猫の微笑のせいではないのだが、ふっと気分がわるくなってきた。あたりから呻き声が聞こえてくる。森の木々が、ねじれを増し、わずかにうごめいているように思える。
「まさか、森の木々はすべて……」
『人間だよ。饐えた呪いと恨みつらみに魔力酔いしそうだ』
うげぇ、きもちわるぅ、などと愛らしさのカケラもなく二日酔いじみた様子のクロだったが、そのうちまたニャゴニャゴとしか言わなくなってしまった。本人の言うとおり、ネコ化が進んでいるらしい。
「って、おい、案内はどうした? どうやって魔女を倒すのか教えてからネコになれよ」
との訴えは、もちろんネコには届かない。いったいどうしたものかと思わないでもないが、このまま森の奥へむかうしかないだろう。生首との御対面ね。ぞっとしないけれど、仕方ない。〈首のない夜会服の女〉の去った方をみている仲間たちに向きなおり、とにかくもっと森のおくへ進もうと声をかけた。
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