第59話 城

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第59話 城

 駒鳥(コマドリ)の案内した先には、見覚えのある城が建っていた。  高台から四方を見下(みお)ろしている石積みの城は、大魔法使いの領地にあったものだ。周辺の風景は違っているけれど、まちがいない。どういうことなのだろう。人の荷物のうえで気持ちよさそうに寝ているクロ《=大魔法使い黒猫ver》をゆさぶり、 「おい、起きてくれ」 『ムニャムニャ、ニャオン』 「ねぼけてないで、しっかりしてくれよ」 『んー? おお、まだ生きてたか』 「おかげさまでね。で、なぜかあんたの城があるんだが、どういうことなんだ?」 『我の城ではない。もともと魔女の城だったのさ。ここがはるか昔の時代だということを忘れるな。なかに入ってみろ。たいしていじってないからな。ほとんど変わりないはずだ』  その言葉どおり、なかの構造はほとんど変わりなく、クロ《=大魔法使い黒猫ver》の案内で中庭へ出ると、もとの世界のように、色とりどりの花が咲き、芝生(しばふ)の中央には東屋(あずまや)が建てられていた。また円錐状の屋根のさきには女神像らしきものが(やり)を手にして立ち、日の光をあびて輝いていた。  ただ、もとの世界と違って、女神像の(やり)のさきに何かが刺さっていた。逆光に目をこらす。それは、荒れたながい髪におおわれた人の首だった。やわらかな肉感のあるもので、彫像などではない。  串刺しにされた首だ。  死んでいる? いや、それは生きていた。むらさきの髪に隠されて表情のみえない首が、口もとだけで、にやりと笑った。
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