第5話 狩人

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 なにより気になっていたのだろう。最初の質問はそれだった。屍肉(しにく)あさりというだけで()み嫌われる。小屋を追いだされるかもしれないが、ウソをついてもばれるだろう。しかたなく、うなずいたところへ、 「銀貨もあさったんだな?」 と追い討ちのようにたずねられた。否定せず、だまっていると、あの子を呼びよせ、 「ふるい外套(がいとう)と一緒に、なんまいもの銀貨が残されていた。妹なのか」 と問われた。どう答えたものか迷っていると、つづけて名前をきかれ、自分の名前はこたえたが、あの子の名前はこたえようがなかった。知らないのだ。なにしろ、そのときやっと女の子だと知ったくらいなのだから。  沈黙がつづくなか、あの子が走りよってくると、なにを思ったか、俺に抱きついてきた。体中が痛みで悲鳴をあげるけれど、それ以上に、何年ぶりかに人に抱きしめられたことをおもった。むらさきがかった髪をなでながら……赤子(あかご)幼子(おさなご)も、意外なほど世界をみているものさ……と、この子を託されたときのことを思いだしていた。いつか、自分の親を思いだすこともあるのだろうか。  そんな俺の様子をみながら、タギがすこし考えこむようにして言った。 「呼び名がなくては不便だな。おまえの名前はジュだったか。なら、この子のことはレナと呼ぶことにしよう」  続けて、不満げに成りゆきを見守っていた少女にむきなおる。 「リップ、話は終わりだ。ばばさまを……」 「こんなやつ、みてもらうことないよ!」  リップと呼ばれた少女は、うでをくんだまま小屋からでていこうとしない。それをタギは、非難するでなく、声をあげるでなく、じっとみつめるのだった。やがて、リップは、ぷいと横をむき、わかったよ、と外へでていった。 「すまんな」  さきほどまで俺がしていたように、炉中の火をながめながらいう。「屍肉(しにく)あさりが嫌いなのだよ」 「屍肉(しにく)あさりが好きな人はいない。なんなら、俺だって嫌いだ」 「そうだな」  ははっ、と短くわらう。その後、いっしょに暮らすようになっても、なかなか聞く機会のないタギのわらい声だった。
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