2人が本棚に入れています
本棚に追加
なにより気になっていたのだろう。最初の質問はそれだった。屍肉あさりというだけで忌み嫌われる。小屋を追いだされるかもしれないが、ウソをついてもばれるだろう。しかたなく、うなずいたところへ、
「銀貨もあさったんだな?」
と追い討ちのようにたずねられた。否定せず、だまっていると、あの子を呼びよせ、
「ふるい外套と一緒に、なんまいもの銀貨が残されていた。妹なのか」
と問われた。どう答えたものか迷っていると、つづけて名前をきかれ、自分の名前はこたえたが、あの子の名前はこたえようがなかった。知らないのだ。なにしろ、そのときやっと女の子だと知ったくらいなのだから。
沈黙がつづくなか、あの子が走りよってくると、なにを思ったか、俺に抱きついてきた。体中が痛みで悲鳴をあげるけれど、それ以上に、何年ぶりかに人に抱きしめられたことをおもった。むらさきがかった髪をなでながら……赤子も幼子も、意外なほど世界をみているものさ……と、この子を託されたときのことを思いだしていた。いつか、自分の親を思いだすこともあるのだろうか。
そんな俺の様子をみながら、タギがすこし考えこむようにして言った。
「呼び名がなくては不便だな。おまえの名前はジュだったか。なら、この子のことはレナと呼ぶことにしよう」
続けて、不満げに成りゆきを見守っていた少女にむきなおる。
「リップ、話は終わりだ。ばばさまを……」
「こんなやつ、みてもらうことないよ!」
リップと呼ばれた少女は、うでをくんだまま小屋からでていこうとしない。それをタギは、非難するでなく、声をあげるでなく、じっとみつめるのだった。やがて、リップは、ぷいと横をむき、わかったよ、と外へでていった。
「すまんな」
さきほどまで俺がしていたように、炉中の火をながめながらいう。「屍肉あさりが嫌いなのだよ」
「屍肉あさりが好きな人はいない。なんなら、俺だって嫌いだ」
「そうだな」
ははっ、と短くわらう。その後、いっしょに暮らすようになっても、なかなか聞く機会のないタギのわらい声だった。
最初のコメントを投稿しよう!