第6話 スープ

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第6話 スープ

 コクコクと、なべの煮つまる音がする。  炉のまえにどっしりとすわった狩人(かりうど)の背中は、ゴツゴツとしていて、力強く、しずかだ。レナと名づけられたあの子も、リップのあとを追って出てゆき、小屋には俺とタギだけだった。どうしてたすかったのか、ゲドウたちはどうしたのか、知りたいことも多かった。けれど、口をついてでたのは、 「ナイフは……」 との一言(ひとこと)だった。タギが、じろりとこちらをみたので続けざるをえない。 「黒いナイフがなかったかな。そばに落ちていたか、それとも……」  胸に刺さっていなかったか、と、たずねるのはためらわれて口をつぐんでしまった。しかし、そう聞いていたとしてもタギの返答はシンプルだっただろう。 「知らん。おとなしく寝てろ」  こちらをみることもなく、なげつけるような言葉だった。とはいえ、ふしぎと冷たさはない。屍肉(しにく)あさりにむけられる声としては。  またしばらく沈黙がつづき、やわらかで雑多な動物の毛皮があたたかく眠気をもたらす。レナの無垢な寝顔をおもいだし、また、たずねてみた。 「ひろわれたとき、あの子は、レナは……」 「ずっと寝ておったよ」  かわらず短くこたえ、魔法は好かん、と鼻をならすと立ちあがった。あらく削りだされた木のうつわに、なべで煮えていたものをとりわけて差しだす。 「あたたまる。スープだけでも飲んでおけ」  さしだされた手は、ながいあいだ熱さ寒さにさらされた岩のようで、あらあらしい自然をうつしとったかのようだった。寡黙(かもく)さは過酷さとつながることなく、なにものをも恐れず、なにものをも拒絶しない、そうした生き方を感じさせる。はなし好きではないかもしれない。けれど、なにをたずねてもかまわないようにおもえた。 「たすけてくれたんだよね。どうして?」 「ケモノは狩る。人は狩らん。それだけだ。わしの森で人狩りなどさせん」 「ほかの連中は?」 「おまえをたすけたときには、だれもおらんかったよ。逃げたんだろうさ」 「たすけてくれたのは、たまたまだったってことかな」
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