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第7話 おばば
ひひ、呪われているね。
そう告げる老婆自身はどうなのだろう。片目片足、顔半分にひどいヤケドのあとがあり、ひひ、と笑うたびにほおがひきつる。リップが連れてきた、おばばだ。
「ひひ、この顔が気になるかい。むかし、ちょっとばかりコンガリと焼かれてね」
ぶしつけな視線に怒るどころか、楽しげに応じてわらう。
「それまではまあ、そこそこの見ためだったんだがねぇ。ひひ、だが、もっと他のものが見えるようになった。それを良かったなんていう気はないがね。おまえさんも、いつか、おなじことを思うかもしれないよ。だって、あんた……」
おまえさんも、呪われとるんだからね。
ひひ、と笑う老婆は気味がわるく、ということもなく、どことなく愛らしい。
屍肉あさりと呪いか、これほどしっくりくる物もないな。レナを託されたとき、じつは呪いをかけられていたのだろうか。なにを犠牲にしてもこの子をまもれと。自分の意思のようで自分の意思でないものに動かされ、それを自分で気付かない。それこそを呪いという。だが、それをいうなら、俺たちは、だれもが呪われている。
「ひひ、そうだね。呪われていない人間などいない。言葉をえたサルは言葉にしばられる。呪いも呪いも、おなじものさ。だから、あんたのそれに悪意を感じないのもふしぎはない。愛憎なかばして、人は闇にはいる。ひひ、おばばの師匠の言葉だがね。ああ、やっぱり、まだしばられているよ」
ひひ、と笑うおばばのうしろから、ひょこっとレナが顔をだし、きしし、と笑った。そのまま、こちらが満身創痍なのもかまわず、いきおいよくベッドへ突撃してくる。半身を起こした俺の腕のなかへとびこみ、背中をあずけて、ちょこんとすわる。そっと抱くようにしてやると、安心できるのか、そこらの毛皮を手にとって遊びはじめた。
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