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「なんで、なつくのかな。こんなやつに」
とは、戸口で様子をみていたリップだ。俺よりも背がたかく、ひとつふたつ年上なのかもしれない。狩人の娘らしく、ぜい肉のないひきしまった体つきはオオカミをおもいおこさせる。
「ひひ、それはその子がまだ言葉を知らないからだ。いや、その年にしては遅すぎるかもしれないがね。きっとレナはこわがりなんだよ」
「よくわかんない。あたし、あたまわるいから、もっとわかるようにいってよ」
「ふぅむ、たしかにな」
「いやいや、そこは否定してよ。ほんとうに、あたしがバカみたいじゃない」
「ひひ、あたらずとも遠からず。言葉をもたない者は、言葉をもたぬゆえにわかる。世界をまげることなく直視し、自分の言葉にしばられていない。ケモノに悪意はない。人の子もおなじさ。ものいわぬ幼子に悪意を感じることはなかろう」
「まあ、そうね」
腕組みをして聞いていたリップが、すこし首をかしげるようにして俺のほうをみた。
「つまり、言葉をつかうあたしには悪意があるってことよね。かくすつもりもないけど。あたしは、屍肉あさりが嫌いだ。こいつの顔をみていると吐きけがする」
「これ、リップ、よさぬかよ」
「へっ、やだね」
と、くるりと背をむけていってしまった。
やれやれ、こまったものよ、と、つぶやくおばばは、べつに困っているようにもみえず、どこか楽しそうだった。
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