第7話 おばば

2/2
前へ
/269ページ
次へ
「なんで、なつくのかな。こんなやつに」  とは、戸口(とぐち)で様子をみていたリップだ。俺よりも背がたかく、ひとつふたつ年上なのかもしれない。狩人(かりうど)の娘らしく、ぜい肉のないひきしまった体つきはオオカミをおもいおこさせる。 「ひひ、それはその子がまだ言葉を知らないからだ。いや、その年にしては遅すぎるかもしれないがね。きっとレナはこわがりなんだよ」 「よくわかんない。あたし、あたまわるいから、もっとわかるようにいってよ」 「ふぅむ、たしかにな」 「いやいや、そこは否定してよ。ほんとうに、あたしがバカみたいじゃない」 「ひひ、あたらずとも遠からず。言葉をもたない者は、言葉をもたぬゆえにわかる。世界をまげることなく直視し、自分の言葉にしばられていない。ケモノに悪意はない。人の子もおなじさ。ものいわぬ幼子(おさなご)に悪意を感じることはなかろう」 「まあ、そうね」  腕組みをして聞いていたリップが、すこし首をかしげるようにして俺のほうをみた。 「つまり、言葉をつかうあたしには悪意があるってことよね。かくすつもりもないけど。あたしは、屍肉(しにく)あさりが嫌いだ。こいつの顔をみていると吐きけがする」 「これ、リップ、よさぬかよ」 「へっ、やだね」  と、くるりと背をむけていってしまった。  やれやれ、こまったものよ、と、つぶやくおばばは、べつに困っているようにもみえず、どこか楽しそうだった。
/269ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加