2人が本棚に入れています
本棚に追加
屋敷の侍女かなにかで、王都が陥落したさいに、その屋敷のお嬢さまを身をていしてまもった。そんな美談じみた出来事があったのかもしれない。しれないというのは、その女性と子どもとの関係は聞けずじまいだったからだ。
女性の目には失望、あるいは絶望があった。
それはそうだろう。一か八か、救いを求める声をあげたところへやってきたのは、戦場あとや廃墟をあらして食いぶちを稼ぐしか能のない屍肉あさり、スカベンジャーのガキだったのだから。襲撃者の残党でなかっただけよかったのかどうか。血の気のない青白い顔で女性が俺をまねきよせた。どうやら、隠し部屋からでる力ものこっていないらしい。
ああ、この人はもう死ぬな。
そう思った。ハゲタカやハイエナのように、屍肉あさりのガキは人の死に敏感だ。どんな屈強な戦士であれ、知恵のある学者であれ、あるいは威厳をそなえた貴族であれ、死ねば無力だ。持ちものをはがれ、服をはがれ、金歯をはがれ、なにもかもをはぎとってやっても文句はいわない。文字どおり、みぐるみはがしてやるのだ。この世界に復讐するかのように、スカベンジャーたちは死にむらがる。だから、人の死も感じとれるのだろう。
俺は、女性が死ぬのを待っていた。
それをどう受けとったのかわからないが、女性は、かんまんな動きで懐から大きな宝石をとりだし、それを俺にさしだした。金になるとおもうよりもさきに、そのかがやきに魅せられてのばした右手を思いのほか強い力でつかまれた。うでの骨がきしみ、痛みが音をたてる。きゃしゃな女性のどこにそんな力がひそんでいたのか、ぐいとひきよせられ、呪うように言葉をはかれた。
「屍肉あさりだね?」
そうだと答えることもできず、おびえながらうなずくと、なにがおかしいのか、女性は乾いた笑い声をあげた。
「こいつはいい。私たちの最期にはふさわしい相手じゃないか。なぁ、そうだろう?」
と、問いかけながらも、俺のことなどみえてもいないかのようだった。そのあいだにも、ギリギリ、ギリギリとしめつけられ、ほんとうに腕をへし折られるかとおもえた。いまでも五指のあとがアザになって残っている。
女性が、けほけほとせきこみ、かくせない死臭と血をはきだす。
「ああ、だめだね。もうもたない。スカベンジャー、名前をいえ」
「ジュ」
最初のコメントを投稿しよう!