1人が本棚に入れています
本棚に追加
/148ページ
「ほう、古代語で太陽の意味か。おまえの親は、もしかしたら、それなりの地位と教養があったのかもしれないな」
「親の顔はしらない」
「しってるさ。わすれているだけだ。赤子も、幼子も、意外なほど世界をみているものさ」
「……逃げないから、はなしてくれよ」
「だめだ、スカベンジャー。おまえたちのやりくちは知っているよ。心配しなくても、この宝石はくれてやる。ただし、けっして人にみせるんじゃないよ。たかく売れるだなんて思ったらひどい目にあうからな。たかく売れすぎるのさ。代償は、おまえの命だ。だれもが、おまえを殺してでも奪いとろうとするだろう。それだけの価値があるものなんだ」
そこまで話して、がくりと首をたれた。と思うと、ふたたび、むくりともたげた女性の顔には微笑があり、やさしさがあった。
「ジュといいましたね。宝石よりも銀貨をもっていきなさい。ふところに、いくらか入っています。あなたの目は屍肉あさりをするには優しすぎる。おなじスカベンジャーでも、渉猟者になりなさい。旅をしながら、この子をまもってあげてほしいのです」
女性の口調の変化にとまどいながらも、この子というのが女性のかかえる幼子だというのはわかったから、あいまいにうなずいた。
「ああ、何日も隠れていたかいがあったというもの。あなたは、きっとこの子をまもってくれる。数多の犠牲をはらってでも」
「その子、生きてるの?」
「生きてますとも」
目をつむりながら、ほほえんだ。「飲まず食わずで生きのびられるよう、魔法のねむりをかけてあるのです。めざめるまでに、ここをはなれ、安全な場所へ。ああ、あまりに血をながしすぎた。私はもう死にます。あなたには私との約束をまもる義務はない。監視する者もいない。ただ、あなたの良心だけが、あなたをしばるでしょう」
ふたたび、がくりと首をたれ、その首がもちあがってくることは二度となかった。ただ、俺の手をつかんでいた腕はそのままで、女性の指が食いこむようにしていた。
急速に冷たくなっていく指を、一本一本ひきはがす。
最初のコメントを投稿しよう!