第1話 はじまりの日

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 屍肉(しにく)あさりとして人の死にざまは多くみてきたけれど、こんなかたちの死は初めてだった。とはいえ、スカベンジャーにもルールがある。死者との約束などクソ喰らえ。死者は死ぬまでが死者であり、死ねばただの死体。格言じみたこれらの言葉が屍肉(しにく)あさりのまもるべき道であり、法なのだ。だから、当然、死体の宝石は奪い、銀貨も奪った。そのほか、ふところにあったナイフや装飾品も奪った。  そして、死体の胸でねむる幼子(おさなご)は……。  自分と自分の庇護者(ひごしゃ)だった者に何が起きているかも知らぬげな穏やかな寝顔は、なにかを思いださせてくれそうだった。  しかし、屍肉(しにく)あさりのガキに拾われてどうなるというのか。このまま死んだほうがいい。なんなら……。ナイフのするどい刃と、幼子(おさなご)のやわらかなのどを見比べて、でも、すっと刃をひくだけのことができず、その子をそこへおきざりにして、銀貨をもてあそびながら外へでた。  日暮れがちかく、カラスの鳴き声がする。  ふきわたる風はつめたく、冬のおとずれが近いことを告げていた。はやくこの場を去ろう、いつもの死となにも変わりないと言い聞かせても足が動こうとしない。ズキンズキンと右腕が痛むたびに、かわした言葉が心によみがえる。……意外なほど世界をみているものさ……古代語で太陽の意味か……あなたの目は……渉猟者(しょうりょうしゃ)になりなさい……。  呪いのような言葉を振りすてようと、ぶんぶんと首をふった。  しかし、それらは耳に入った水滴のように、しつこく頭のなかで声をあげる。  ふところからナイフをとりだし、さやから引き抜くと、黒い刃体が夕日を反射してまぶしかった。それをぐっと握りしめ、うしろを振りかえる。
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