第2話 良心、あるいは死者の呪い

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第2話 良心、あるいは死者の呪い

 結局、俺はその子を殺せなかった。  置き去りにもできなかった。  子どもの俺には重いその子を背負い、こっそりと街をはなれたのだ。屍肉(しにく)あさりとしては掟破(おきてやぶ)りであり、みつかれば執拗(しつよう)な制裁をうける。ときには、そのまま殺され、あさられる側になることだってある。  それだけの重荷を負うことになるとわかっていても、(おきて)にしたがうことはできなかった。それが自分の良心によるのか、死者の呪いだったのか、いまではもうわからない。  俺は死ぬまでこの子をまもるだろう。  あてもなく逃げだしたあと、危険を承知で森へはいった。森のおくは人ならぬ者たちのすみかだし、ただのケモノだって十分危険だ。こちらが狩られる側になってもおかしくない。だが、街道は目立つし、(ぞく)もおおい。王国を滅ぼした連中、……どこの兵隊なのかすら知らなかったが……そいつらが残っていないともかぎらないし、敗残兵なんかにみつかったら、なおさらわるい。だから、森と道の境い目をたどった。ヒトの領域とケモノの領域のはざまを。どこにも属さない屍肉(しにく)あさりにはふさわしい道行(みちゆ)きだ。  しかし、どこへ……?  そんなことをのんびり考えている余裕はなかった。水も食糧も手持ちはすくない。ケモノのように森で生きていくことはできないのだ。そうできるのなら、屍肉(しにく)あさりなどの出る幕はない。  さまよい続ける俺に目的地はなく、ただ、追われているとの気配と焦燥(しょうそう)だけは日々おおきくなってくるのだった。これまでにも屍肉(しにく)あさりから抜けようとしたやつはいたが、いずれも失敗していた。  追跡は執拗(しつよう)だ。    なぜなら、屍肉(しにく)あさりが(おきて)を破ってでも逃げようというときは、それだけのお宝をみつけたときに限られているから。そのときの俺だってそうだ。ねむり続ける生きた荷物を背負っていることをのぞけば、銀貨と大きな宝石を死体から奪って逃げた。掟破(おきてやぶ)り以外のなにものでもない。  まだ子どもにすぎなくても、多くの死をみとり、奪い、狩り、追う、そんな生活をかさねてきて、不吉さと死をかぎとる感覚だけはとぎすまされていた。それがまた、追いつめられつつあることを容赦なく告げてくる。  逃走の終わりがちかい。
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