1人が本棚に入れています
本棚に追加
/154ページ
第2話 良心、あるいは死者の呪い
結局、俺はその子を殺せなかった。
置き去りにもできなかった。
子どもの俺には重いその子を背負い、こっそりと街をはなれたのだ。屍肉あさりとしては掟破りであり、みつかれば執拗な制裁をうける。ときには、そのまま殺され、あさられる側になることだってある。
それだけの重荷を負うことになるとわかっていても、掟にしたがうことはできなかった。それが自分の良心によるのか、死者の呪いだったのか、いまではもうわからない。
俺は死ぬまでこの子をまもるだろう。
あてもなく逃げだしたあと、危険を承知で森へはいった。森のおくは人ならぬ者たちのすみかだし、ただのケモノだって十分危険だ。こちらが狩られる側になってもおかしくない。だが、街道は目立つし、賊もおおい。王国を滅ぼした連中、……どこの兵隊なのかすら知らなかったが……そいつらが残っていないともかぎらないし、敗残兵なんかにみつかったら、なおさらわるい。だから、森と道の境い目をたどった。ヒトの領域とケモノの領域のはざまを。どこにも属さない屍肉あさりにはふさわしい道行きだ。
しかし、どこへ……?
そんなことをのんびり考えている余裕はなかった。水も食糧も手持ちはすくない。ケモノのように森で生きていくことはできないのだ。そうできるのなら、屍肉あさりなどの出る幕はない。
さまよい続ける俺に目的地はなく、ただ、追われているとの気配と焦燥だけは日々おおきくなってくるのだった。これまでにも屍肉あさりから抜けようとしたやつはいたが、いずれも失敗していた。
追跡は執拗だ。
なぜなら、屍肉あさりが掟を破ってでも逃げようというときは、それだけのお宝をみつけたときに限られているから。そのときの俺だってそうだ。ねむり続ける生きた荷物を背負っていることをのぞけば、銀貨と大きな宝石を死体から奪って逃げた。掟破り以外のなにものでもない。
まだ子どもにすぎなくても、多くの死をみとり、奪い、狩り、追う、そんな生活をかさねてきて、不吉さと死をかぎとる感覚だけはとぎすまされていた。それがまた、追いつめられつつあることを容赦なく告げてくる。
逃走の終わりがちかい。
最初のコメントを投稿しよう!