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開いた口が塞がらない。驚きのあまり、変な声が出る。
「なんで、ここに、おまえがっ」
「大丈夫? チャールズから、なにかされてない? 怪我とか、病気とか、そういうの平気?」
「いや、俺はなんともないけど。なんで、おまえ、一体どういうこと?」
宛がわれた地下室の一角、奥の寝室から飛び出してきたのは、昨日再会したばかりの碧だった。
もう、さっぱりわからない。いや、アンディと会ってからこっち、振り回されっぱなしな気がする。どいつもこいつも、俺に説明する気がないらしい。
「話せば長くなるんだけど」
「とりあえず、話してくれ。ああ、あいつ、チャールズっていうの? 俺には名乗りもしなかったんだけど」
「チャールズはコードネームみたいなものだよ。彼がいくつの名前を使い分けてるかは、僕も知らない」
「で、そもそも、俺のところを飛び出してから、どうしてたんだ? おまえこそ、無事だったのか?」
抑制剤が効くようになったのか、どこぞのDomとプレイで解消しているのか、碧本人のコンディションは悪くないように見える。
「僕は、あれから家に戻って、Sub向けの強い抑制剤を飲んだりしたんだけど、なかなか効き目が悪くて。それで、アメリカの方では新薬があるって聞いて、治療を受けるってことで、こっちに来たんだ。緋聖くんがアメリカに渡った話も聞こえてきたし」
「やっぱりマイクロチップか」
「そう。でも、緋聖くんがどこにいるかはわからなかったし、抑制剤は効いたけど、ランクの高いSubは珍しいからって、治験に協力することになって」
セントラルでなくとも、高ランクのSubに目をつける機関はあるだろう。Domのほうが使い途があるように思われがちだが、Subの需要もある。高ランクのSubでしか満たされない。そんなDomだって存在する。
「それで、碧がこっちで知り合ったのが、さっきのチャールズって奴なわけ? 何者だよ、あいつ」
「僕も正確なことは知らない。ただ、政府に近い人だと思うよ」
「なるほど」
国家権力をバックにしていれば、アンディのパートナーの件で司法取引くらい匙加減一つで、どうにでもできそうだ。
「俺は当分、ここに監禁されそうなんだけど、碧の方はどうなってるんだ?」
「なにか、大きなイベントがあるんじゃないかな。Xデイに向けてカウントダウンしてるらしいよ。選挙でもないし、戦争でもないだろうし、なにに向けて備えてるのかはわからないけど」
碧がわからないなら、俺にはもう知りようもない。
「僕はね、日本人のDomが来るって聞いて、面倒みて欲しいって言われたんだ」
「ってことは、ひょっとすると、もしかして、」
「僕と緋聖くんが知り合いってことは、知られてないんじゃない?」
「この部屋に盗聴器がなければ、な」
俺と碧の関係が知られていないのは、アドバンテージになるかはわからない。
「とにかく、僕はどんな形でも、緋聖くんと一緒にいられて良かった」
ネオとアンディの行方は気がかりだったが、碧と会えたのは不幸中の幸いだった。
俺と碧を繋ぐ線はまだ途切れていなかったらしい。
俺の首筋に顔を埋めた碧が、匂いを嗅ぐように鼻を鳴らす。シャワーすら浴びてないのが気になったが、いまさら突き放すなんて俺にはできない。
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