[7]俺は俺以外のものになれない。

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 細胞の一つ一つが、喜んでるんだと思う。  碧で満たされる。  汗と吐息とぬくもりが混じり合って、どこまでが俺で、どこまでが碧かわからないくらいに、ただただ心地よい。鼓動を重ねているだけで、それだけでイイ。  ゆっくりと出ていく碧の感触さえ、官能を刺激される。弛緩した後孔から、ぬるいものが溢れる。漏らしたみたいで不快なはずなのに、嫌じゃなかった。  手慰みで、碧の臍にかかった精と混ぜてみる。二人分の体液を、碧の下腹部に塗りつける。 「くすぐったいよ」 「ん……」  碧は笑いながら俺の腰骨を撫でて、尻肉を掴んだ。力まかせに揉みこまれる。俺は碧の左手を取って、無言で先を促した。 「なあに?」 「……もっと」 「もっと、なあに?」  クスクスと笑う碧を、軽く睨む。赤い唇に噛みつくようなキスを落とす。 「ふっ、んぅ、」  舌を絡めながら、碧の乳首を引っ掻く。軽くつまんでコリコリ転がすと、なだらかな脇腹が波打った。気を良くした俺が続きをしようとすると、まだぬかるんでいる窪みを二本の指でくじられる。  熱を持って疼いている入口を弄られ、同時にやわらかな膨らみを握られて、今度は俺の方が呻きを漏らす番だった。 「あ、碧ッ」  さっきまで繋がっていたそこは、神経が剥き出しになったみたいに敏感だった。やわな刺激じゃ物足りない。もっと嬲るくらい激しく、強い力で責められたくて、思わず腰を揺さぶっていた。 「今度は、緋聖くんの顔を見てしたい」  うわずった声で囁かれて、半端に焦らされたままの肉筒が疼いた。 「いいよ」  俺は碧の上から降りると、誘うように膝を立てて、とびきり甘いGlareを向けた。 「その次は、うしろからがいい」 「うん、いいね」  俺たちは、離れていた距離と時間を埋めつくすように、外界の喧騒から隔てられた地下室で、馬鹿みたいにしつこく交わりあった。  鬱憤と不安を晴らしたくて、不足していた成分を喰らうように、手足を絡ませて、喉が枯れるまで喘いでいた。  体の余韻が冷めないまま、夢かうつつかという状態でまどろんでいた。  空調は快適で、当面の心配ごとはなく、久しぶりのプレイと交歓で全身が満たされていた。  不意に、ミシミシと壁が軋むような、低い音が響いた。揺れたのかもしれない。なにかに体当たりされたみたいな、おかしな振動だった。 「地震?」 「いや、ここ地下室だよね」 「そもそも、地震なんて起きる土地なのか、ここ」  っていうか、いま正確に自分がどこにいるのかさえ、わからないんだけどな。 「なんだったんだろうね」 「さあな」  考えてもわからない。明日の自分がどうなってるかすら、見当もつかない。俺たちの身の上なんて所詮、チャールズの掌で転がされる程度の存在。  俺と碧は早々に考えるのを諦めて、互いに抱き合って眠った。
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